誠-巡る時、幕末の鐘-
桜の名を持つモノ
―――屯所
門の辺りがにわかに騒がしくなった。
夕食の仕度を進めていた響は、それを不思議に思い、調理場から玄関へと向かった。
「奏、おかえりなさい。………それは?」
表情を無くした奏が抱いている着物に目をやった。
それは奏が出ていく時に着ていたもので、僅かに膨らみを帯びている。
「………そんなっ!!!!」
奏がそっと軽く着物の裾をめくり、何であるか否がおうでも分かってしまった。
肩から腹にかけての刀傷。
美しい毛並みを真っ赤に濡らしたソレが桜花だと気づくのに、時間は必要なかった。
響は口元を手で押さえ、自分が震えているのを感じた。
「響、布を持ってきてくれる?体を洗ってやりたいから。あと湯も」
「は、はい」
未だ能面のように泣くこともしない、怒り狂うこともしない奏。
返って反動がいかほどのものなのか。
響はそれを心底心配しつつ、奏に言われた通り取りにいった。