誠-巡る時、幕末の鐘-



「栄太、お前はもう帰れ」


「……うん」


「誰か送ってってやれ」


「俺、送っていくよ」




土方の言葉に藤堂が名乗りを上げた。




「頼んだよ、平助」


「あぁ」




藤堂が栄太の手をとり、その場を去っていった。


栄太は何度も名残惜しげに振り向いていた。




「さぁ、澪ちゃん。私達も戻りましょう」


「うん」




うん、と返事をしたが、立とうとする気配はない。


ずっと桜花の墓を見続けている。




………伊純様のこと…思い出して……。




おそらく、澪ちゃんは自分の母親の墓を見た時と今を重ねている。


その証拠に、瞳は揺らいでいた。




「澪、戻るぞ」


「きゃっ」




土方に抱き上げられ、始めは驚いていたが、安心したのか、きゅっと服を掴み、顔を胸に埋めた。


やはり、子供は安心できる相手を本能的に嗅ぎ分けているのだろう。


澪ちゃんはそのまま屯所までピクリともしなかった。



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