誠-巡る時、幕末の鐘-
「見殺し……それも少し違うな。見殺しっていうのは、助けに入るべき位置にいるものが助けなかった場合のことを言うんだ。さっきの二人のようにね」
彼方は敢えて笑みを崩さない。
奏の記憶が戻ったことを言われずとも悟っていながら。
「………だって僕は風戸側“だった”んだから」
「…どうやら彼、奏ちゃんの優しいお兄さんってわけじゃないみたいですね」
「あぁ。猫の皮どころか虎の皮までひっかぶっていやがったみてぇだな」
土方達も彼方に対して警戒心を強めた。
注意しすぎるくらいがこの男に対しては丁度いい。
みんなゆっくりと刀に手を伸ばした。
「何故??……あなたは姉上達にとてもよくされていたはず」
爺の姉は奏達の母親だ。
爺にとっても、主と姉の両方を失ったことになる。
「何故って……あんなに仲が悪かった風戸から送られてきた僕を、何の疑いもなしに信用する方がおかしいと思うけど」
「てめぇ……育ててもらった恩を仇で返しやがって」
土方が低い声で言い放った。