洞穴咄〜ホラーナハナシ〜

ふと助手席を見やると、文恵は腿に肘を付き、入念に爪の手入れをしている。


「ほら、そんなに目を近付けたらダメだよ。背筋をシャンと伸ばして」


元々小さい彼女はそれに反して胸が豊かだった。小学生の頃にからかわれてから、文恵には背中を丸める癖が付いてしまった。


「低い身長が余計に小さくみえるから」と、私はことある毎に注意していた。


「あ……はぁぁい」


彼女はちょっと拗ねた風で、肩肘を付いて流れる景色を眺めている。


車は出口へ続くレーンに移り、ゲートをくぐる。一般道は田舎道らしさ満点の荒い舗装だった。


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