【短編集】七ツ丘中 百物語
1.ついてこないで

徐々に日は長くなってきたとは言っても、部活が終わったこの時間には外はだいぶ暗い。空気はすでに昼の熱を放射しきってしまったように冷たいが、私の腹の底から来る震えは寒さだけのせいではない気がした。

コートのポケットからiPodを取り出して、イヤホンを耳に押し込んだ。再生ボタンを押すと、まだ聞き慣れてはいないにぎやかな歌が流れ込んできてほっと息をついた。一人ぼっちの帰り道、寒さと寂しさと心細さを紛らわすには、これが一番だ。

ひんやりしたイヤホンが耳に馴染むまで待って、早足気味に昇降口を出た。


変質者が出る、と朝礼で聞いたのはいつだったか。月曜日のことだから、3日前だ。

「なるべく近くの人と一緒に帰るように」

そんなことを言われたけど、部活内に同じ方向に帰る人がいない私にはどうすることも出来ない。徒歩で15分の距離は決して遠くはないけれど、変質者の出没範囲が学校周辺だって言うんだから安全とは言えない。

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