【短編集】七ツ丘中 百物語
どうかしたのか、と見下ろすと、遠山は上の方を指さして、「ふいて!」と唇だけで告げた。
「そういう時こそ、声出せよ……」
なんなんだ、と思いながら遠山のさした方を見ると、手形? がぺたりと付いていた。外の方が明るいせいで、こちらからだとよく見えない。
だから、当たりをつけて洗剤を吹きかけ、ごしごしこする。
一通りこすり終わってじっと見る。よし、落ちた。
「他は?」
「こっちも」
15センチくらいずれた、同じような位置にまた手形。
中学生にもなって、窓に手形付けて遊ぶなよ、と舌打ちし、さっきと同じように拭いていく。
その後も、5か所ほど、遠山の指示通りに手の跡を拭き続け、だるくなった肩をぐるぐる回した。
「森くん」