【短編集】七ツ丘中 百物語

「小さく、なかった?」
「え?」

気のせいかな、と遠山はすでに綺麗になっている窓を見上げた。

小さい? ……言われてみれば、そうかもしれない。
俺が消した手の跡は、どれも俺の手よりは小さかった。
ちら、と遠山の手を見る。俺のよりは小さいが、さっきの手形はもっともっと小さかった。

「私のいとこ、まだ4歳くらいなんだけど」

その子の手と同じくらいの大きさなんだよね。
独り言のように言いながら、じっと窓ガラスを見つめている。

「気のせい、じゃないのか?」
「うーん」
「まぁ、もうそろそろ掃除の時間も終わりだし、消したんだからいいじゃねぇか」
「……」
「あんま気にすんなよ」

頷きかけた遠山の動きが止まり、小さな声で、「森くん」とつぶやいた。

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