【短編集】七ツ丘中 百物語
遠山の視線は、拭いたばかりの窓ガラスに吸い寄せられている。
俺はつられるように、彼女の視線をたどった。
「私、あそこ、ふいたよね?」
ゆっくりと独り言のようにつぶやく遠山の言葉に頷くが、目が窓ガラスから離れない。
見ている間にも、ひとつ、ふたつ、
「ふえ、て」
気のせいだなんて気休めも口にできない。
ぺたぺたぺたべたべたべたべた
「森くん!」
見る間に白く曇っていくガラスをバックに、遠山の悲鳴に似た声が響いた。
振り返ると、遠山の見開いた目は、真っすぐ俺に。
正しくは、俺の肩に。
「っ!」
小さな手の、跡がくっきりと。
鉄のような臭いが、つんと鼻をついた。
<了>