【短編集】七ツ丘中 百物語
でも、いきなり変質者に遭遇なんてことはないだろう。
みんながみんな変質者に襲われるわけじゃない。
そうは思って見ても、やっぱり夜は暗くて寂しく、住宅街に入るととたんにひっそりと静まり返る。遠くを走る車の音すら聞こえないときには、自分の心音だけが妙に大きく耳について、さらに恐怖心を煽る。
変質者がいるかもしれない、だから注意しなくちゃいけない。
昨日、そう思って耳を澄まして帰ったのが悪かったんだ。
変質者はいなかった。少なくとも、私は遭遇しなかった。
だけど、澄ました耳に足音がずっとついてくるのが聞こえた。
それは私の恐怖心が生んだ幻聴だったのかもしれないし、偶然同じ方向に歩いていた人がいたのかもしれない。姿は見えなかったけど。
もしかしたら、自分の足音に怯えていただけだったのかもしれない。
その足音がなんだったのかは分からないままだけど、とにかく怖い。音源がどこだったのか分からないところがまた怖さを煽る。