【短編集】七ツ丘中 百物語
だから周りの音を拾わないように、今日からはこうして吉村に借りたCDをインストールしたiPodとともに帰ることにした。
いつも明るい吉村のお気に入りの音楽が一緒だと思えば、少しは気持ちも明るくなる。音楽に聴き入って帰れば、気も紛れるし。
必要最低限しかない街灯は、私の帰る道の全てを照らしつくしてくれるわけではない。カチャカチャ鳴る鞄の重さと頭の中を流れる歌にだけ集中して、帰り道を辿るのはほとんど帰巣本能に任せて。
そのとき、曲と曲の合間。
前曲がフェードアウトして行き、次曲が始まるまでの数秒間。
静けさの合間に、コツコツと足音が聞こえた。
ヒールのような、革靴のような、とにかく固い靴がアスファルトを蹴る音。
すぐに始まったドラムの音に掻き消され、それは聞こえなくなってしまった。いや、聞こえなくなったはずだった。
だけど、耳から入ってくる歌は脳まで伝わってきてくれなかった。聞こえてしまった靴の音に私の脳内は支配されたように、離れない。
……コツコツ、コツコツ