【短編集】七ツ丘中 百物語

私の肩を掴んだ手は、そのまま私の両肩を支えるようにして押さえつけた。

「今野!」
「……え?」

おそるおそる目を開けて顔を上げると、ほっとしたように口元を緩めた見慣れた顔。
みるみる私の視界は安心の涙で滲んだ。

「吉村……吉村じゃんー……」
「ったく……声かけてんのに走り出すなよな」
「だって、だって追いかけてくるんだもん! 怖いじゃない!」
「だから声かけただろうが!」
「聞こえなかったんだよぅ……」


カシャカシャとまだ鳴り続けていた私のイヤホンを、吉村はそっと外して「あぁ」と納得したように頷いた。

「帰り道にこんなん聴いてたら、危ないぞ。車がいきなり出てきたって、気付かないだろ」
「でも、……ごめんなさい」
「ま、一人の帰り道じゃ寂しいもんな。しょうがないっちゃしょうがないか」

明るい声でそう言って、吉村は大きく息をついた。

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