【短編集】七ツ丘中 百物語
それだけじゃないよ。
聞こえた足音のこととか、暗くて怖かったこととか、変質者が出ることとか、もういろいろ伝えたいことだらけだった。
けど、のんきな吉村の顔を見ていたら安心して泣けてきちゃって、自分で思っていた以上に怖かったんだって気付いた。
「って、お前泣くなよ! 俺が泣かしたみたいじゃねえか!」
「うぅ」
「あ、そうだ。これ、落としていったろ。はい」
私の手を取って、そっと深緑色の包みを握らせてくれた。近所のお稲荷さんの交通安全のお守り。今年の正月に買ったばかりのお守りだ。
「これ、」
「いや、校門でようとしたときにお前の後姿が見えてさ。帰る方向一緒だし声かけようと思ってたら、それ落っことして行くしよ。渡そうと思って走ったら、お前逃げるしよ!」
「ありがとうー」
「だから泣くなって」
ぱたぱたと自分のズボンのポケットを探って、吉村はバツが悪そうに頭をかいた。
「ハンカチ持ってねえや」
「期待してないー」
「どういう意味だ……」