Яё:set
「息子さんが失踪したときの状況をお聞きしたいのです。」
私の言葉に彼女はポツリポツリと話し始めた。
いなくなった少年は知的障害だったが、桁はずれた記憶能力の持ち主だった。
「・・・“サヴァン症候群”って言うらしいんです。とても珍しいそうで、治療を兼ねてある研究施設に息子を預けたんです。」
母親はそこまで話すと、涙を溢しながら「それが間違いでした」と言った。
「良くならなかったのですか?」
「いえ・・・息子はとても驚くほど良くなりました・・・怖いくらいに・・・」
・・・“怖い”・・・?
その言い方に私は赤井と顔を見合わせた。
「あの研究施設で息子がなにをされたのかは判りません。でも・・・でも、まるで別人のようでした。」
失踪直後に警察には話したらしいが、軽く聞き流されてまともに取りあってもらえなかったらしい。
「事件のファイルにはご両親が息子さんを預けたという研究施設ですが、“製薬工場だった”と書かれてますが?」
「ええ・・・確かに表向きは製薬工場でした。でも確かにそこは研究所だったんです!」
私は涙ながらにそう訴える母親がうそを言っているようには思えなかった。