Яё:set



私は最初、簡単なテストをした。



“まちがいさがし”に似たものだったが、彼はいとも簡単に解いてみせた。



彼は文字の読み書きは出来なかったが、物事を“形”として記憶する。



そして忘れる事が出来ない。



今まで記憶した全てを背負い、彼の精神状態は見掛け以上に負担になっていると私は考えた。



そこで2日目より新薬を投与した。



彼の思う“普通”に精神状態を近付ける事で、私への信頼も確立された。




だが“新薬”はその効き目がある反面、副作用も大きかった。




多少それも計算に入れてはいたが、予想以上に症状が出るのが早かった。




幸いその症状が肉体的なものだけで、彼の脳は相変わらず驚異的記憶能力を発揮していた。




彼はそう長くは生きられないだろう。




私は“勿体無い”と思った。



こんなに素晴らしい能力を持ったまま死んでしまうのだから…。




でも彼は「自分の記憶能力を先生にあげる」と言った。



それは本心か薬の影響か…。



どちらにせよ、私は彼の“能力”を手に入れた。



身体はロストしたが、これでまた研究が続けられる。




─何も問題ない─





< 60 / 146 >

この作品をシェア

pagetop