Яё:set
私は最初、簡単なテストをした。
“まちがいさがし”に似たものだったが、彼はいとも簡単に解いてみせた。
彼は文字の読み書きは出来なかったが、物事を“形”として記憶する。
そして忘れる事が出来ない。
今まで記憶した全てを背負い、彼の精神状態は見掛け以上に負担になっていると私は考えた。
そこで2日目より新薬を投与した。
彼の思う“普通”に精神状態を近付ける事で、私への信頼も確立された。
だが“新薬”はその効き目がある反面、副作用も大きかった。
多少それも計算に入れてはいたが、予想以上に症状が出るのが早かった。
幸いその症状が肉体的なものだけで、彼の脳は相変わらず驚異的記憶能力を発揮していた。
彼はそう長くは生きられないだろう。
私は“勿体無い”と思った。
こんなに素晴らしい能力を持ったまま死んでしまうのだから…。
でも彼は「自分の記憶能力を先生にあげる」と言った。
それは本心か薬の影響か…。
どちらにせよ、私は彼の“能力”を手に入れた。
身体はロストしたが、これでまた研究が続けられる。
─何も問題ない─