夏の記憶
中学3年生のクラス替えの張り紙にタケルの名前を見つけた時、
わたしは見慣れたはずのその名前が、気になって仕方がなかった。
どうしてかはわからないけど、
「朝比奈タケル」
という名前をみたら
なんだか胸がきゅってして、
そう…
本音はね、
ちょっとだけ、嬉しかった。
その時、ふと振り向いた先にタケルがいた。
わたしの1メートルほど後ろで、同じように張り紙を見ていたタケルと目が合う。
その時わたしは初めて気がついた。
いつの間にかタケルの身長はわたしを越えていて、わたしはタケルを見上げている。
「タケル……同じクラスだね」
思わず普通に話しかける。
「あ~~あ、そう」
タケルはすぐに目をそらしてぶっきらぼうにそう答えた。
「おまえどけよ。見えねえだろ」
そう言って、タケルは目の前で虫を払うように、顔の前で手を縦に振る。
「うるさいば~~か」
「うるせえよ」
この時、わたしたちは久しぶりに学校で笑いあった。
本当に久しぶりだった。
ほんの一瞬の出来事だったけど、わたしはそれがなんだかとても嬉しくて、いまでも思い出すと胸がクスクスとくすぐったくなる。