夏の記憶
「知ってるよ」



その頃のわたし達は、家から歩いて5分の場所にあった社(やしろ)で遊んでばかりいた。


小学校にあがる前の私たちが、毎日飽きずに何をしていたかといったら、実を言うとあまり思い出せない。


夏に蝉取りをして、タケルがカゴいっぱいに捕まえたセミを誇らしげに私に見せびらかしていたのは覚えている。


記憶というのは、
その時かんじていた気温や匂い、風の冷たさで思い出すものみたいなのです。


わたしのなかのタケルの記憶といったら、
思い出すのはあのまとわりつくような夏の暑さ。


そして夕暮れの湿った風が、汗ばんだ肌にやけに涼しく感じた事。


タケルのくりっとした大きな瞳のいたずらっぽい顔を思い出すたびに、わたしは同時に夏の夕暮れを思い出す。





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