夏の記憶
二人で苺飴を食べながら、祭りの会場を歩いた。


人ごみは更にふくらみ、浴衣のわたしとジーパンにスニーカーのタケルとでは、自然にタケルが前に行く。


人ごみにのまれて、本当にはぐれてしまいそうだった。


わたしは小走りでタケルの背中を追う。


祭りの匂いと、人ごみの熱気と、夏の夜の湿気が入り混じり、浴衣の下には汗がにじむ。



ずいぶん大きくなったタケルの背中を見て、わたしはふと小学2年生の夏休みを思い出した。





小学2年生の夏休み。毎朝近所の公園のラジオ体操に行っていた。


ラジオ体操が終わると、いつもお茶やジュースの缶が用意してあって、各自1本ずつ配られることになっていた。


自分の欲しいジュースを手に入れる為に、体操が終わると児童は皆ジュースの置いてある長机に走った。


タケルは昔から足が速かったから、わたしはいつもタケルの背中を見て走った。





大きな手の感触が、不意にわたしの左手を包んだ。


驚いて前を見ると、タケルの手がわたしの手を握っていた。


「はぐれんなよ」


タケルはそれだけ言って、後は前を向いて祭りの人ごみを歩いた。



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