夏の記憶
「で、でもほら、もしだよ、もし梢と幸ちゃんがこの階段の上でさ、なんか……そういうことしてるとしたらさ、わたしたちお邪魔になっちゃうんじゃない?」


「幸助にそんな度胸ねえよ」


慌てるわたしとは対照的に、タケルは平然と言ってのけた。


「じゃあどうしてそんなところに行くの?」


「…俺人ごみ嫌いなんだよ」


心なしか怒っているような口調でタケルはそう言って、わたしの手を引いて再び階段を上がりだした。



タケルがなぜその時怒ったのか、その時のわたしには知る由もなかった。



あの時タケルの気持ちにわたしがもっと気がついていたら、そう、梢のように勘を働かせてタケルの気持ちに気付いていたら。


わたしたちの未来はなにか変っていただろうか。





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