夏の記憶
大丈夫だよタケル。何でもないよ。気にしないで。家に帰ろう。


私は何か言おうとしたけど、声は涙になるだけだった。



「優奈、どうしたいの?」



タケルの大きな手が私の頭をなでていた。



「タケルともう一度手をつなぎたい」



そう言いたかったけど、相変わらず声は嗚咽にかわるだけだった。



私が何も言わずに泣くだけだから、タケルもしばらく何も言わなかった。



「帰るぞ」



タケルの言葉に、私はうつむいたままようやくうなづいた。



その時、私の手首を、タケルの手がつかんだのがわかった。



私の顔を覆っていた両手が無理やりどけられる。



「ちょっ……」



涙でぐしゃぐしゃの顔を見られたくない。



慌てて顔を横にそむけようとするよりも、タケルの両手が私の両頬を包んだ方が早かった。

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