夏の記憶
お社の前に立っていたタケルがこちらを振り返る。


ダメージのジーパンに白いシャツ。


「優奈」


タケルは少し驚いたという風にこちらをみた。



「どうして?」



「別に……なんとなく…」



そう言ってタケルは頭をかいた。



「なんか懐かしいね。小さい頃よく遊んだよね。」



「蝉ばっかりとってたよな」



「冬もここで遊んでたけどさ、お社といったらなんか蝉だよね」



そう言って私たちは笑った。



「なあ、優奈知ってる?」



お社の前に立ったままタケルが言う。



「なにを?」



私はお社の脇にあるベンチに腰をかける。



「ここってさ、ずっと昔に戦に出る人たちの無事を祈って建てられた社なんだぜ。」



「そうんなんだ」



そんな話?といった風の私の気持ちを察したのか、タケルは話を続ける。



「でもさ、一度戦にいったら帰ってこられる人はほとんどいなかったんだぜ。だからいつからかさ、このお社は、この辺で戦に行く人たちが今生の別れを告げに来る場所になったんだ。」



「どうしてそんな話知ってるの?」



「戦争で死んだじいちゃんが戦争に行く時にここにお参りしに来たって、ばあちゃんが昔言ってたんだよ」
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