夏の記憶
最初、私はその違和感に気がつかなかった。
いつものお社。
木々に囲まれ、足元には熊笹が顔をのぞかせ、古ぼけた瓦と木で出来た小さなお社。
その注連縄がかすかに揺れていた。
その揺れ方が不自然である事に気がつくのに、そう時間は掛らなかった。
いつもは閉じているはずのお社の扉が、少し開いているのだ。
そして、注連縄は、お社の扉の方からあおられるように揺れていた。
お社の内側から風が吹いている。
どうして?と感じたのと、ほぼ同時だった。
その瞬間、私の頭のなかには、まるで津波のように、忘れていた全ての記憶が押し寄せてきたのだった。
「タケル…」
なんとかそう言ってタケルを追いかけようとした瞬間、足はもつれて動かなくなり、水の中を走っているかのように重くなる。
無我夢中でもがいても身体は前に進まず、周りの景色は急激に色あせていく。
「待って、覚めないで……!!」
必死の願いは言葉にならず、頭は重くなっていく。
薄れていく意識のなかで、わたしはタケルの名前を何度も呼んでいた。
いつものお社。
木々に囲まれ、足元には熊笹が顔をのぞかせ、古ぼけた瓦と木で出来た小さなお社。
その注連縄がかすかに揺れていた。
その揺れ方が不自然である事に気がつくのに、そう時間は掛らなかった。
いつもは閉じているはずのお社の扉が、少し開いているのだ。
そして、注連縄は、お社の扉の方からあおられるように揺れていた。
お社の内側から風が吹いている。
どうして?と感じたのと、ほぼ同時だった。
その瞬間、私の頭のなかには、まるで津波のように、忘れていた全ての記憶が押し寄せてきたのだった。
「タケル…」
なんとかそう言ってタケルを追いかけようとした瞬間、足はもつれて動かなくなり、水の中を走っているかのように重くなる。
無我夢中でもがいても身体は前に進まず、周りの景色は急激に色あせていく。
「待って、覚めないで……!!」
必死の願いは言葉にならず、頭は重くなっていく。
薄れていく意識のなかで、わたしはタケルの名前を何度も呼んでいた。