夏の記憶
タケルの背後のお社から、冷たい風が吹く。

私の涙でぬれた頬と、汗で濡れた額を風が冷やしていく。

タケルの髪がサラサラと風になびく。



「待ってタケル…!!行かないで!!」


私は反射的にそう叫んでいた。


お社から光が射す。




光はタケルの背を照らし、やがてタケルを包み込んでいく。





「優奈、ずっと好きだった」




その言葉が響いたかと思った瞬間、タケルの笑顔は白い光に包まれた。

私はまぶしさにたまらず目を閉じる。




目を開けたその時、相変わらず蝉の声は肌にまとわりつき、夏の湿った空気が通り過ぎてはまた戻る。





お社の扉は閉じて、その後私が何度押しても引いても開く事はなかった。
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