Sweet kiss〜眠り姫は俺様王子に捕まりました。
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今日は、やけに面倒な昼だった。
理由は一つ。それは、弁当に厄介な物が入れられていたからだ。
【愛情たっぷりつめ込みました! 志貴くん、絶対食べてね? 志貴くん専用だからね!】
熱烈な手紙、と言えばそれで終わりだが……今までの経験上、こーいう手紙がある場合、変な物が入っている確立が高い。
急いで望月の弁当を取り上げると、弁当を買わせる為にも、一旦会室から追い出す。弁当を確認すれば、案の定怪しい物が入っていた。
……気持ちわりぃーな。
卵焼きの中を見れば、黒くて長い物が目に付く。詳しく見れば、それは予想通り、手紙の主のであろう髪の毛だった。
最近こーいうのがなかったから、気を抜いていた。
マジで危なかった……。
あいつが食わなくてよかったと、安堵のため息をもらす。
その後、弁当は全部処分した。他がどうであろうと、あんな物を見てしまっては、気持ちが治まらない。
ったく、せっかくの弁当がマズくなる。
望月の弁当を食べ、はらを満たす。昨日も思ったが、味は結構好みで。こーやって作ってもらうのは、気に入ったやつから貰えば、意外と自分は嫌ではないことに気が付いた。
そんな中、突然望月は倒れてしまう。保健室へ運ぼうとすれば、極度にそれを拒み……ぎゅーっとオレの服を掴んでいた。
何があったか知らねぇーけど、連れて行くわけにはいかないか。
「……はぁ。しょーがねぇーな。隼人、そっちのドア」
「はいよ。ってか、毛布とかいらない?」
「いるだろうな。晶は、望月の担任に伝えてくれ」
奥の部屋へと連れて行き、ソファーへと寝かせる。
一応、友達の藤原にも伝えておこうと思い、隼人にそのことを頼んだ。
本当……なんでこいつ、倒れたんだ?
寝不足かと聞けば、違うと答えられてしまい――次第に、起きていられないんだなというのを感じた。
毛布をかけ、ひとまずゆっくり寝かせた方がいいだろうと思い、鍵をかけ部屋から退散。すると、慌ただしい音と共に、会室のドアが開け放たれた。
「真白、どこにいるの!?」
相変わらずだなぁ~こいつは。
やって来たのは、望月の友達である藤原。
隼人の姿はなく、多分、置いて行かれたんだろうなと容易に想像できた。
「うるせぇーな。今こっちの部屋で寝かせてるんだ。起きるだろう?」
さすがに悪いと思ったのか、ごめん……と小さく、藤原は謝罪の言葉を口にした。
「紫乃ちゃん、足速過ぎ! オレ置いてくんだもんなぁ……」
少し遅れて、残念そうな隼人がやって来た。
晶は戻らなかったが、オレたち三人は、そのまま会室にいた。
もしかしたら休み時間内に起きるかもと思っていたが、それは多分ないだろうと、藤原は言う。
「梶原の話からしたら、今のはちょっと重たいだろうからね」
「結局、真白ちゃんってなんで倒れたの?」
オレも思っている疑問を、隼人が先にぶつける。けれどそれに、藤原はなんとも歯切れの悪い様子で言う。
「私からは……ちょっと。それは、真白本人からでないと」
藤原の様子から、一筋縄ではいかない何かがあるんだというのを感じた。
それから昼休みが終わり、ひとまずクラスに戻ったものの……会室にいる望月のことが、やけに気になっていた。
授業が終了すると、足早に会室へ向かう。奥の部屋に行き、そっとドアを開ければ――望月は、まだ目を覚ましていなかった。
「おーい、望月」
「――――」
声をかけてみるものの、反応は全くない。
肩をゆすっても反応がなく、今度は強めにゆすってみたが……まるで、死んだように眠っていた。ここまで反応がないと、本当に大丈夫なのか心配になってくる。
「息は――してるか」
あまりの静かさに、首に触れ脈を確認する。どうやらちゃんと生きてるらしい。
「にしても――本当に起きないんだな」
再び肩をゆするも、やっぱり反応はない。
頬に触れれば微かに反応があったものの、それも最初だけ。二回目に触れた時は、また反応を示さなくなってしまった。
こいつ……やわらけぇな。
思ったよりも頬がやわらかく、さわり心地のいい感触。初めは起こす為に触れていたのに、いつしか、自分が触れたいが為に頬を撫でていた。
そばで見れば、身長だけでなく顔も小さいとか、髪が綺麗だとか――今更ながら、男子の間で噂になるのもわかる気がした。
「――――隙だらけ、だな」
未だ、起きる様子のない望月。
再び肩を揺さぶってみても、まだ反応はない。
「こんなんじゃ、変な男に目を付けられるだろうな」
ま、こいつからしたら、オレもその一員かもしれないが。
男に対して怖がるなら、そーいう何かがあったんだろう。
壁際に追い詰めた時、望月は怯えた目をしていた。いきなりあんなことをされれば無理もないが、今までの経験上、自分は志貴くんを特別視してないわよ、的なやつほど、隙あらば色々と仕掛けてくる。演技かと怪しんだが、オレが顔を近付けても、他の女のような行動はしてこなかった。
だからこいつは、本当に何か、嫌な思いをしたんだろう。
面白そうだからとからかってたが……さすがに罪悪感が湧く。
もしかしたら、オレが会室に来させたせいで引き金になったんじゃないかって。