Sweet kiss〜眠り姫は俺様王子に捕まりました。

 「――言わねぇーと、わからないぞ?」

 耳元で囁けば、一瞬、反応を示す。
 起きるか? と思い顔を離すが、それから特に反応は見られなかった。



 ?……香水?



 近付いた瞬間、微かに花の匂いが香る。再び近付けば、それは髪の毛からしているようで、その匂いは、オレ的に好ましいものだった。



 あぁ~……やベぇーな。



 オレの中で、もっと触れたい……と、そんな感情が込み上げる。
 無防備な女が目の前にいるんだ。少しはそーいうことを考えてしまう。



 ――――何、やってんだ?



 気付けば、望月に覆いかぶさっていた。どうやら、意外と理性がヤバいらしい。

 「――――」

 「――ふっ」

 こんな状況でも眠ってるんだから、気楽なもんだよな。
 ただの気まぐれ。バラされない為。面白そうだからと置いたが……どうやら、今は少し違うらしい。



 「覚悟……してろよ?」



 これからは、違った意味でからかってみるか。
 きっと面白い反応をするんだろうと思っていれば、枷が外れてしまったのか、体は自然と望月に近付いてき――唇に、軽く触れるだけのキスをしていた。



 「――――…」



 すると、今まで何をしても反応がなかった望月は、起きる気配を見せ始めた。
 ははっ、キスで起きるって。
 こんなの、あだなのとおりじゃねぇーか。
 偶然だとわかっていても、それがおかしくて、面白くて――なぜか、うれしくも思えた。

 ◇◆◇◆◇

 ―――――――――…
 ――――――…
 ――…

 『それは、とても辛かったでしょうね』

 男性の声に、私は一瞬身構える。
 けれどこれは、今起きていることではなくて……二年前の、出来事だった。

 『話したければ、いつでも来るといいですよ』

 やわらかな口調で話すその人は、中学の時、保健医だった人。
 その先生に、私は体のことだけではなく、自分が今置かれている状況についても話していた。親身になって聞いてくれる先生に、次第に心を開いていったのに……この時先生は、私を生徒以上として見ていたなんて。
 不信に思ったのは、ベッドで寝ている時。違和感を覚え目を開けると、そこには、やたら近くに先生の顔があった。
 思わず後退する私に、先生は何事もなかったかのようにカーテンの向こうへと行ったのだけど……この日を境に、気になることが多くなった。

 『あ、あのう……何を、するんですか?』

 『マッサージですよ。背中の緊張を解してあげれば、少しはよくなると思います』

 体が思わしくない私に、先生は椅子に座るように言う。それに従うと、先生は背後に回り、背中を指圧し始めた。



 これが――決定的なものとなるなんて、思いもよらなかった。



 嫌な感覚が体を包み、夢は、そこで薄らいでいく。



 それは、自分が拒絶しているからか。
 それとも、忘れてしまいたいからか。



 嫌な夢が消えていくと、私はようやく、安堵して眠れた気がした。

 ――――――――……
 ―――――……
 ――……



 「――。―――?」



 声が、聞こえた気がした。
 心なしか、何かが触れているような感覚もして……。



 「――――…?」



 「起きたか。もう放課後だぞ」



 梶原……先輩?
 起き上がろうとする私の体を、意外にも、先輩は支えてくれた。まだ思うように動けない私を、後ろにあるクッションへと寄りかからせてくれる。
 そこでようやく、自分がソファーで横になっていたことに気が付いた。

 「動けないなら、まだここにいればいい」

 心配……してくれてる?
 失礼かもしれないけど、ここ二日の先輩の行動を考えると、やさしくされるのは変な気がしてしまう。
 できることなら……まだいたい。
 そう告げれば、先輩は、ん、と短い言葉と共に、飲み物を差し出した。

 「寝起きはノドが乾くだろう。これ、嫌いだったか?」

 「い、いいえ。――いただきまっ」

 受け取ろうとした途端、それは私の手に掴まれることはなく。するりと手の間を抜け、床へと落ちてしまった。
 ……まだ、こんなこともできないなんて。
 予想以上の体の不調に、私は思わず眉をひそめた。
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