Sweet kiss〜眠り姫は俺様王子に捕まりました。

Episode 2…逆らえません。〈前編〉


 今日は、放課後に初めての生徒会役員の顔合わせのある日。
 まずは生徒会の執行部から挨拶をということで、会長から順に自己紹介をする。

 「梶原志貴です。みなさんと一緒に、よりよい生徒会を作って行きたいと思います」

 最後に笑顔を見せれば、女子のほとんどは心を鷲掴みにされたような目をしている。
 身長が八十近くあって、頭もよくて。おまけにスポーツも出来るとなれば、女子がほっとかないのも無理はないだろうけど。
 この笑顔が営業用って知ってて見ると、なんだかちょっと、怖く見える。
 だというのに、それでも視線は、自然と梶原先輩へと向いてしまって……ある一点に、目がいってしまう。



 本当に……先輩と。



 キスのことが蘇り、恥ずかしさが込み上げてくるというのに。私の視線は、尚も梶原先輩の口元へ注がれていた。

 「――――ふっ」

 一瞬、席に付く梶原先輩と目が合ってしまう。
 まるで何を考えていたのかわかったような顔をし、意味ありえげな笑みを見せる。それに私は、一気に顔が熱くなるのを感じた。
 き、気にしない気にしない!
 あれはなし……なしだったんだから!
 気持ちをなんとかリセットし、小さく何度か深呼吸をしながら、自分の番がくるのを待った。

 「副の賀来隼人です。仲良くやって行きましょうねぇ」

 賀来先輩も、梶原先輩のような爽やかな笑顔を見せる。人懐っこいような雰囲気が出ていて、これはこれで、女子は釘付けになっているようだった。

 「書記の藤原紫乃です。会長に負けないよう、頑張って務めたいと思います」

 紫乃ちゃんは本当に生徒会に入ってくれて、私は心強かった。
 仕事では、迷惑かけないように頑張らないと。
 次に、私も紫乃ちゃんと同じように挨拶をし、軽く頭を下げた。
 その他、体育委員・環境委員・生活委員と挨拶をしていき、終わると次は、話し合いが始められた。

 「今日の話は、今週末行なわれる研修についてです。二泊三日で、今回は山へと行く予定になっています。詳しくは、手元の資料を見て下さい」

 梶原先輩が話を進めていき、みんなは資料に目を通し始めた。
 見ると、行き先は展望台のある山の施設。夜は大きな望遠鏡を覗き、星の観察が出来るらしい。それを見て、私は今から楽しみになってきた。

 「質問がなければ、これで終わりたいと思いますが……」

 「はい、質問です」

 そんな中、女子の先輩が手を上げる。

 「では、浅宮(あさみや)さん」

 指名され、その人はすっと静かに席を立つ。
 胸まで伸びたダークブラウンの、少しウェーブがかかった髪。やわらかな雰囲気に、やさしそうな人だなぁと思いながら、その人を見ていた。

 「以前の研修では、施設内では私服が許可されましたけど……今回はどうなんですか?」

 「書き忘れですね。みなさん、今から言うことを付け足して下さい。施設内は、私服が許可されています。派手なのはもちろんダメですけどね。あと、施設内の自販機は使用していいので、必要な人は、多少のお金の準備を」

 それから他に質問が出ることもなく、話し合いは終了。
 これで終わったと思ったら、軽くため息がもれた。

 「真白、一緒に帰ろう」

 紫乃ちゃんに声をかけられ、返事を返す。
 特に梶原先輩から何か頼まれることもなく(ここ数日も至って平和に)、すんなりと寮へ帰り着いた。
 ここは、寮といってもみんな自炊。寮母さんがご飯を作ってくれる寮もあるらしいけど、相部屋になるのが苦手で。紫乃ちゃんも気兼ねない一人部屋がいいとのことで、私たちはこの寮に入っている。

 「買い物行くけど、真白はどうする?」

 「あ、私も行く!」

 そろそろ買出ししないとだしね。
 私服に着替えると、私たちは寮から一番近いスーパーへと向った。



 「そういえばさ――真白、会長から推薦されたんだよね?」



 話の中で、紫乃ちゃんはそんな話題を切り出す。それに頷くと、紫乃ちゃんの表情は、どこか困ったような顔をしているように見えた。

 「会長からの推薦だと……何か、あるの?」

 「別に、何かあるってわけじゃないんだけどね。珍しいなぁ~って思って」

 確かにそうだよね。
 でも、推薦された理由を言うわけにはいかないし。

 「多分、先生が押したのもあると思うなぁ。北嶋先生からも、結構言われたから」

 「ふ~ん。ま、別にいいんだけどさ」

 どこか腑に落ちない様子ではあったけど、私は別な話題へと切り替えた。
 これ以上話してたら、ぼろが出ちゃいそうだし。
 自分で嘘を付くのは上手くないとわかっているから、なんとか誤魔化そうと、その後は必死だった。
 ごめんね紫乃ちゃん……こればっかりは、言うわけにいかないから。
 心の中で謝りつつ、いつものように会話をしていった。
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