Sweet kiss〜眠り姫は俺様王子に捕まりました。

 「二人とも~そろそろ上がらないと、のぼせちゃうわよ?」

 翠先輩に言われ、私たちお風呂から上がった。
 三人で並び髪などを洗っていると……ふと、視線を感じた。すると、先輩と目が合い、先輩はどこか関心するような眼差しを向け。



 「真白ちゃん、ギャップがるのねぇ~」



 そう言って、先輩は私のある一点に集中していた。

 「そ、そんなに見ないで下さいよ……」

 視線の先は、私の胸。
 思わず両手で隠す私に、先輩は尚も興味があるようで、隣の紫乃ちゃんに話をふる。

 「真白ちゃんって、胸に栄養がいったのね」

 「あぁ~それは私も思います。ここ一年、特に発育いいみたいですよ?」

 「し、紫乃ちゃん!」

 「恥ずかしがらないでいいじゃない。私は小さいから、羨ましいよ」

 「そ、それでも恥ずかしいよぉ……」

 そこまで大きくはないと思うけど、見た目が幼い印象を受けるせいか、こうやってみんなでお風呂に入った時には、ちょっと驚かれてしまうんだよね。
 ……一応、Dのちょっと大きめだったりはするけど。

 「本当、私にも分けて欲しいぐらいねぇ~」

 そう言って、先輩は自分の胸に視線を注ぐ。
 別に、先輩もそこまで小さくはないと思うけどなぁ。

 「確か女性の平均って、Dぐらいって言われてるらしいですね」

 「あら、じゃあ私はちょっと足りないわね」

 「私なんてワンカップもですよ? これ以上身長にいかないで、こっちに行って欲しいですよ」

 「も、もうよしましょう!」

 隣の男風呂に聞こえるのではと心配になり、話をなんとか切り上げようとする。それに紫乃ちゃんも気付いたのか、天井に視線を向けながら、聞こえたかなぁと、少し不安な声をもらす。

 「多分、聞こえてると思うわよ? ここって、壁が薄いみたいだから」

 「「…………」」

 先輩の言葉に、私たちは固まった。

 「あら? 気にしないふうだったから、てっきり紫乃ちゃんは知ってて話にのってきたかと思ったのに」

 「いや、さすがに分かってたら話しませんよ!」

 私よりも、意外と紫乃ちゃんが取り乱していた。やっぱり、聞かれたら恥ずかしいのは一緒らしく、珍しく頬を赤らめていた。
 でも、先輩は聞かれても平気なようで。むしろ、聞かせてやればいいのよ的なノリで言う。

 「もし聞いてたら、すぐに分かるから大丈夫よ」

 「「…………」」

 多分、今私と紫乃ちゃんは、同じことを考えていると思う。



 先輩……何が大丈夫なんですか!?



 そんなツッコミを、心で入れていた。
 楽しくも恥ずかしい時間が終わり、食事を済ませればいよいよ、二階にある展望台の施設で星の観察。
 施設へと向う中……私の胸は、やけに騒がしかった。
 それは、やっぱり梶原先輩のことが気になってしまっているから。
 私は紫乃ちゃんの背に隠れるようにし、梶原先輩とは距離を置いて、先生や施設の人の話を聞いていた。
 二階の施設は、星の写真や模型なども展示している。観察が終われば、後から自由に見られるらしい。

 「すっごいキレイ! ほら、真白も見てみな」

 言われて望遠鏡を覗けば、そこには本当に綺麗な光が広がっていた。
 本当、すぐ目の前にあるみたいで。手を伸ばせば掴めそうなぐらい、それだけ鮮明だった。

 「すごいね紫乃ちゃん! こんなに近くっ!?」

 振り返れば、そこにいるはずの紫乃ちゃんはいなくて。

 「望月さん、随分と楽しそうだね」

 爽やかな営業スマイルの、梶原先輩が立ってた。

 「次、代わってもらえるかな?」

 「ど、どうぞ……」

 「ありがとう。――この後、わかってるな?」

 「っ!?」

 お礼を言ったと思えば、周りには聞こえないように、そっと耳元でいつもの口調で囁く先輩。
 カァッと一気に頬が染まり、私は先輩から離れ、紫乃ちゃんの元へと逃げた。
 や、やっぱりまだ二人きりなんて……!
 無理だという考えが、頭を埋め尽くす。
 恥ずかしいし、それにそんな状態じゃ、失礼なことしちゃいそうだし。



 ……でも、なんで私。



 ふとした疑問が、頭を過る。どうして、先輩といることを嫌がっていないのか、ということを。
 いつもなら、あんなに密着されるような雰囲気になる前に退散したり、最初から関わりを持たないようにしている。
 ただ単に、先輩のペースにのまれているのか……それとも。
 もしかしたらと考える自分と、そんなはずないと考える自分がいて。
 紫乃ちゃんと合流して一緒にいたけど、頭の中は、先輩のことでいっぱいになっていた。



 「これから一時間は自由だ。早く帰って寝るもよし、この階を見学するもよしだ!」



 ついに、先生から自由時間が告げられる。
 途端、一気に心臓が跳ね上がった。
 ど、どうしよう。
 先輩、空けておけって言ってたけど……。
 何をするのかがわからないし、また、あんなふうにくっつかれてしまうのかなぁ。

「真白、どうかしたの?」

「紫乃ちゃん……」

「あ、もしかしてアイツ?」

 無言で頷くと、紫乃ちゃんは呆れたような声をもらした。

「本気で嫌なら、ちゃんと断りなよ?」

「それが……なんだか私、変みたいで」

「変って……ちょっと、こっちに来て」

 休憩スペースに連れて行かれ、そこに腰掛けると、紫乃ちゃんは周りの様子を窺いながら話を始める。

「もしかして……好きになった、とか?」

「ま、まだわからなくて……」

 ドキドキはするけど、それは男性が苦手だから、そういう意識をしていただけだと思うけど――手を握っても、嫌じゃ、なかったんだよね。
 むしろ今は、ほんの少しだけど、一緒にいるのも悪くない自分がいて。
 思っていることをなんとか伝えると、紫乃ちゃんは複雑そうな表情を浮べた。

「真白が恋してくれるのはうれしいけど……あのこと、話せそうなの?」

「今は……まだ、無理だと思う。また最初だけかもって、不安があるから」

 話したら、先輩はどんなふうに思うだろう。
 今までのように接してくれるのか……考えただけで、少し怖くなってくる。

「アイツに知られちゃうの……怖い?」

「うん……ちょとね」

「なーんだ。もう答えは出てるんだね」

「? 答えって」

「だって、知られるのが怖いって、嫌われたくないってことじゃん」

 ははっと笑いながら、紫乃ちゃんは私の背中を軽く叩く。
 私……嫌われたくないって、思ってるのかなぁ?
 好きとか嫌いとか、そういう感情はまだわからないけど……少しは先輩を特別視しているというのが、今の自分の気持ちみたい。



「二人とも~ちょっといい?」



 声の方を向けば、笑顔で近付いて来る賀来先輩。そばに来るなり、呼んでるよ、と言いながら後ろを指差す。

「志貴、すっげー楽しみにしてるから。――嫌じゃないなら、行ってあげて?」

 やわらかな笑みで言う先輩に、私は少し間を置いてから小さく頷いた。
 そして、梶原先輩が居る方へと向って、ゆっくり歩いて行く。

「全く……賀来先輩は、人よりまずは自分でしょう?」

「ははっ、そんなのお互い様。それに――オレには、そんな資格ないしね」

「……資格なんて、必要ないのに」

 振り向けば、話の最中の紫乃ちゃんと目が合う。
それに賀来先輩も気付き、早く行きなよといわんばかりに、二人は手で振る。まるで背中を押されたような気がして、少しだけ、緊張が解れた気がした。
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