Sweet kiss〜眠り姫は俺様王子に捕まりました。
Episode4…意識します。〈前編〉
研修から帰ると、学校内での仕事が増えてきた。
一番の仕事は、来月行なわれる体育祭に向けての準備。その日が近付くにつれ、生徒会の役員は多忙を極めていた。
今はお昼を食べながら(場所はいつもの生徒会室で)、体育祭のことや雑談をしている、のだけど。
「真白、こっち座れ」
「そ、それはさすがに……」
以前と同じように離れて座る私に、先輩はあろうことか、膝の上に座れと言う。先輩曰く、一度やっとく方が慣れていい、と。
な、慣れるかもしれないけど、そんなの恥ずかし過ぎる!
二人きりだったら……ちょっとは、考えてもいいけど。
ここには賀来先輩や晶先輩。それに今日は翠先輩もいて……とてもじゃないけど、そんな大胆なことは出来ない。
「溺愛してるわねぇ~。隼人くん、そう思うわない?」
「だよねぇ~。なんか、表情もやわらかいし。ってか、ニヤついてる」
賀来先輩と翠先輩は面白そうに会話をし、晶先輩は黙々と食事をしている。
「真白、来い」
「だ、ダメです! 隣なら……まだ、いいですけど」
その言葉を待ってましたと言わんばかりに、先輩はニヤリと口元を緩める。すると、先輩はすぐさま私の隣に腰掛け、
「いいって言ったのは、お前だからな?」
そう言って、先輩は私の頭を引き寄せ、髪にそっと口付けを落とした。
「っ!?」
「こら、逃げるな」
み、みんながいるのに!
声にならない声を出し、私はあたふたと顔を真っ赤にした。振り向けば、満足そうな笑みを浮かべる先輩。
隣ならって言ったけど。
こ、これはやり過ぎだよ!!
「翠ちゃ~ん。なんか、見せ付けてる気がするのって気のせい?」
「気のせいじゃないわね。まさか私たちの前でもラブラブだなんて……予想外だわ」
ねぇ~? と顔を見合わせる先輩たち。それに続くように、さすがの晶先輩も口を挟んだ。
「そういうことは、他でやれ」
梶原先輩の行動には、その場にいたメンバー全員が驚きを感じたようで。なんとも言えない視線が、先輩へと向けられていた。
「別にいいだろう?」
「そりゃオレたちはいいけど。問題は、真白ちゃんの気持ちでしょ?」
「本気で嫌がってたらしない。それに、学校じゃここ以外、近付けないからな」
うぅ……本当に嫌がってないだけに、反論できない。
先輩がこうやって近付くのは、実はちゃんと? した理由がある。
――和泉さんへの、対策だ。
私たちが付き合うと知っているのは、今ここにいるメンバーと紫乃ちゃんのみ。
しばらくは内緒にしていようと、先輩から提案されたのだ。
そこまでしなくてもって思ったけど、先輩は人気がある。そういった他の女子からも何かされたら悪いと、生徒会室以外では、特に用事が無い限り話さないようにしていた。
私は普通に過ごしてるけど……どうやら先輩は違うようで。
ここに来たらすぐに接近してきて、意外と、堂々と私に近づけないのが辛いらしい。
「そんなに近付きたいなら、堂々としたらいいんじゃあ……」
「「「それはダメ」」」
その発言に、晶先輩以外の全員から否定されてしまった。しかも、言うタイミングまでピッタリに。
「男のオレが言うのもなんだけど……女子の嫉妬ってのは怖いからね」
「そうねぇ~。しかも、志貴くんの方が溺愛してるなんて、ファンの子たちからしたら絶叫ものでしょうね」
「あのなぁ……怖がらせるようなこと言うなよ。つーか、絶叫の度合いなら、浅宮の方が高かったぞ」
「あら、そうだったかしら?」
覚えてないわねぇ~と、翠先輩はにこやかにお茶を口にする。
女子の嫉妬、かぁ。
紫乃ちゃんも言ってたけど、確かに、こういうのって何をしてくるか分からない。それが以前に何かした人だとすれば、警戒するのも当たり前なんだろうけど。
今はちょっとだけ、翠先輩の何に絶叫したのかと気になってしまった。
前に、許婚がいると言ってたこともあるし。
いいとこのお嬢様なのかなぁって、あれからちょっと考えてたりする。
それを察したのか、今度話してあげるわねと言って、翠先輩は笑顔を見せた。
「あ、そうそう。真白ちゃんは放課後、紫乃ちゃんと一緒に在庫の確認をしてね」
「はい、わかりました」
しばらくすると、お昼の終わりを告げるチャイムが鳴る。それをつまらなそうに聞く梶原先輩は、深いため息をはいていた。