Sweet kiss〜眠り姫は俺様王子に捕まりました。
「翠先輩からメール。ゆっくり休んでねって」
メールを見せながら言うと、紫乃ちゃんも自分の携帯で、先輩にメールを送っていた。
「紫乃ちゃん、ご飯作れる? 無理そうなら、私作るよ?」
利き手をケガしてるんだし、食べるのも大変そう。
「これぐらい平気よ。まだ作り置きも冷凍物もあるし」
「そっか。でも、何かあったら言ってね?」
「ははっ。何かあったらね。じゃあ、また明日」
ドアの前で挨拶をし、私たちは部屋へ入った。途端、疲れが出たのか、どっと体が重くなる感じがする。
はぁ~……気が滅入るかも。
それは、手当てをされながら聞いた話に原因がある。
先生の話によると、あの小石は元々あそこにあった物。でも普段は下に置いていて、ましてやあんな大きな石や、砂が入っているはず無いと。
考えたくないけど、誰かの悪戯だよね。
誰でもよかったのか、それとも……。
思考は、自然と和泉さんのことを連想させ。徐々に、不安へと変わっていった。
なんの証拠も無しに人を疑うなんて、いけないことだとわかってるけど。
『だから……邪魔しちゃダメよ?』
あの言葉が、ふとした瞬間に蘇る。
冷たい言葉と、冷たい眼差し。
あれは本気だったと、全身で恐怖を感じる。
「――――休もう」
起きていたら、余計なことを考えてしまう。
手早く準備をすると、私は寝巻きに袖をとおし、ベッドに体を預けた。
*****
今日はもう、会う時間はねぇーか。
放課後に、生徒会と体育委員には仕事がある。それは、来月行なわれる体育祭の準備。オレと隼人は、司会の進行や放送機材の確認。真白たちは体育倉庫で仕事だから、場所的にも結構離れてる。
近ければ、抱きつけるチャンスがある(無くても作るが)だろうが……諦めた方がいいらしい。
だが、無性に真白に会いたい、会わないといけないと、その時はやけに気になり、
「――――志貴!!」
その意味を知ったのは……事が起きてからだった。
生徒会室で資料をまとめていれば、突然隼人がドアを開け、血相を変えて入って来た。
「――はっ!? ケガってどーいうことだ?!」
「ストーップ!! 大きなケガしてないから」
慌てて行こうとするオレの腕を、隼人は制した。
「とりあえず、志貴は落ち着きなって。今会いに行ったら、色んな意味で理性なんてぶっ飛ぶだろう?」
「っ!…………わかった」
その言葉に、ようやく隼人は手を離し、詳しい状況を説明した。
ケガをしたのは、真白以外にも藤原がいる。そっちの方が酷いらしく、隼人は怪訝そうな表情を浮べていた。
……コイツも、我慢してるんだな。
「とにかく、偶然にしちゃ出来過ぎてるし……マジでこれから、気を付けた方がいいよ?」
「そうそう。焦ってもしょうがないものねぇ~」
重い雰囲気を破ったのは浅宮。そばに来るなり、二人は大丈夫そうだからと言う。
「さっき、真白ちゃんから連絡あったわ。だから志貴くん、部屋に押し掛けないよう、理性は保っててね?」
「……それ、逆に期待してんだろう」
「別にそんなこと。あ、今度は紫乃ちゃんからだわ。――隼人くん、紫乃ちゃんから伝言」
笑顔のまま、浅宮は隼人に耳打ちをする。途端、隼人は素早く生徒会室から出て行った。
「一体、何言ったんだ?」
「紫乃ちゃんが「また隼人先輩が無茶しないように、動かないでほしい」って言われたから、そのまま伝えたまでよ」
「……それ、逆効果だろう」
「でも、これで二人は仲良くなるでしょ?」
「……確信犯か」
こうでもしないと、隼人は自分から行かないだろうが……ここまでわかりやすいと、浅宮みたいにからかってやろうかって思うな。
ま、なんにせよ藤原のことは隼人に任せるとして。