Sweet kiss〜眠り姫は俺様王子に捕まりました。
『わかったか? 勝手に行くなよ?』
「で、でも……紫乃ちゃんも、いますし」
『そこは気にしなくていい。隼人も入れた四人で行く。――だから、オレが行くまで待ってろ』
いいな? と、やわらかな口調で言う先輩。包まれるようなやさしい声に、頬が熱くなるのを感じた。
この声で言われると……どうやら自分は、頷くことしかできないらしい。
『真白……返事は?』
ドキッ、ドキッと高鳴る心臓。私は数回深呼吸をしてから、ようやく言葉を発した。
「わ、わかりました……待ってます、から」
それを聞いて安心したのか、先輩はすっかり安心したような雰囲気をかもし出す。
『あぁ、明日行くから。――疲れてるのに、長話して悪かったな』
「い、いいえ。話せて、安心しましたから」
先輩と話したおかげで、心にあった不安が、少しずつ解消されていた。
『不安なことがあれば、遠慮せず連絡しろ――いいな?』
「で、できるだけ……」
『ま、無理に言うことはねぇーけど』
「は、はい。それじゃあ、私はそろそろ」
『あぁ、ゆっくり休めよ』
「はい……先輩も」
そう言うと、また明日なと言って、先輩は電話を切った。
まだ余韻が残っているのか、私はちょっとドキドキした気持ちで、携帯を見つめていた。
*****
真白との電話を終わらせると、隼人に連絡を取った。だが、一緒に登校する話をする前に、オレは文句を言うことがあった。
「お前なぁ……女の処理はしておけ」
『えっ、いきなり何?』
「帰り、お前が相手した女に聞かれたんだよ。生徒会室に、何で二年がってな」
説明すれば、隼人は罰の悪そうな声で謝ってきた。
『ホントごめん! ってか、もうみんなとは清算してるんだけどね。中にはしつこいのもいてさぁ~』
「何にせよ、面倒事は増やすなよ?」
『了~解。志貴こそ、真白ちゃんから目、離さないようにね』
「あぁ、わかってる」
もっと、周りを警戒しないとだな。隼人に言われるまで、真白たちをつけてるやつがいることも気付かなかったわけだし。
『ってか、もう本性出しちゃえば? あの時はダメって言ったけど、真白ちゃんの言い分もわかるからね』
「簡単にいかねぇーよ。もう一部みたいなものだしな。つーか、本性出すならそっちだろう?」
『え~? これが素だって』
「どこがだよ」
思わず突っ込みを入れてしまった。
隼人も隼人で、ある意味隠している部分がある。普段は穏やかなやつだが、怒らせると手がつけられない。そりゃ誰でも怒ればそうなるだろうが――隼人の場合、息の根を止めかねない勢いがある。
「話はそれだけだ。女の処理、きちんとしろよ?」
『わかったって。とりあえず、その子にはもう一回話つけとくから』
さてと、次は藤原だな。
電話をすれば、意外にもすぐ、藤原は電話に出た。
『――どうかしたの?』
「お前ら今日、ケガしただろう? 明日、オレと隼人が迎えに行くから、一緒に登校するぞ」
『そんなの、一気に目付けられるじゃない。――って言っても、もう遅いか。真白はなんて?』
「いいってさ。もちろん隼人も――?」
電話の奥から、何か音が聞こえる。一人暮らしのはずなのに、真白でも来てるのかと疑問に思えば、ありがとねぇ~と、聞き覚えのある音声が耳に入った。
それは、藤原の家では絶対聞かないはずの――男の声、だった。
『? 梶原、どうかした?』
「――お前、そこに隼人いるだろう」
『っ!? そ、そんなわけないじゃない! テレビよ、テレビ!』
この慌てよう……絶対いるな。
「つーか、一応そこ女子寮だろう? 早く帰らせた方がいいぞ」
『だからいないってっ!?――ごめんね志貴、ちょっと紫乃ちゃんの家におじゃましてまぁ~す』
誤魔化せないとわかったのか、隼人は堂々と電話に出てきた。
「やっぱお前かよ。オレには冷静になれとか言っておいて……」
『オレはいいの。んじゃ、紫乃ちゃんに代わるから』
電話に出た藤原は、珍しく戸惑いを隠せていなかった。
『ってか、これからもう帰ってもらうとこなんだから、変な詮索(せんさく)とかしないでよ?!』
……見事に慌ててるな。こんなの、絶対何かあったって詮索するだろうが。
ま、なにはともあれ、四人で登校するのはいいみたいだ。――明日の為にも、早めに寝とくかな。