Sweet kiss〜眠り姫は俺様王子に捕まりました。
◇◆◇◆◇
翌朝、私は衝撃の光景を目にした。
まだ六時過ぎだというのに呼び鈴が鳴り、寝巻きのまま覗き穴を見れば……。
「望月さん、起きてますよね?」
外に、梶原の先輩の姿があったのだ。
「ちょ、ちょっと待ってて下さい!」
あまりにも早すぎる迎えに、私は慌てて制服に着替えた。
絶対、来るの早って過ぎるでしょう!?
あたふたしながらも、髪の毛のセットを手早く仕上げドアを開けた私に、外ということもあってか、先輩は営業用の振る舞いを見せた。
「おはよう。なかなか出ないから、寝てるかと思いましたよ」
久しぶりに見る営業スマイル。
それに苦笑いを浮べながらも、まだ準備の最中ですからと、ちょっと反論してみた。
「ははっ、確かに早いですね。――邪魔しても?」
いいですか? と、やわらかに問いかけているものの……私には、早く入れろと言っているように見えてしまう。
戸惑いながらも、小さく中へ促す言葉を発した。すると先輩は、ドアが閉まるなり営業スマイルをやめて、
「あ~待ちくたびれた」
背後から抱きしめられ、左肩に、先輩の顔が置かれた。
「やっぱ、抱き心地いいな」
ぎゅ~っと更に密着してくる先輩に、私の心臓は高鳴るばかりだった。
ち、近い……顔、近い近い!
声にならない声を出し、あたふたとする私。それが面白いのか、耳元からふふっと、笑い声が聞こえた。
「今更恥ずかしがるな。別に、誰も見てないだろう?」
「そ、それでも……!」
恥ずかしいことに変わりはないのにっ!
顔を真っ赤にしながら黙っている私に、先輩はそれに気が付いたのか、再び笑いをもらしたかと思うと、
「っん!?」
「やっぱ、反応いいな」
耳に、温かな感触が。それが何であるのかわかった途端、体中が熱くなった。
「な、ななっ……何、を?」
「ん? スキンシップ」
そう言って、先輩は再びぎゅ~っと抱きしめると、意外にもあっさり私を解放してくれた。
「まだ飯食ってないだろう? ほら、一緒に食うぞ」
一緒にって……。
疑問に首を傾げる私に、先輩は手にしている袋を見せる。
「ケガしてるだろう? だから作った」
作ってって……先輩が?
袋に視線を向ける私に、先輩は早く食べるぞと言って、背中を押しながらリビングへと向う。
先に座るよう促され、それに従うと、先輩は目の前にお弁当とペットボトルのお茶を置いた。
「朝ってことで、軽いのにしといた。食えるか?」
「は、はい。あのう……これ、本当に先輩が?」
目の前に置かれたのは、小さな桜色をしたお弁当箱。
中身は、海苔が巻いてあるおにぎりが二つと、焼き魚に出し巻きと、典型的な日本食が入れられていた。
早起き、したのかなぁ?
というか、わざわざこのお弁当箱……買ってくれた?
「他に誰が作る。定番のなら、ちょっとは作れるからな」
「わざわざ、ありがとうございます」
一口食べれば、味は程よい加減で。これなら私よりも上手いんじゃないかって、そんな気さえ思えた。
――いよいよ、登校の時間が迫る。
すると先輩は、あからるさまにため息をついた。
「行きたくねぇ~……」
「ダメですよ。ちゃんと行かないと」
生徒会長らしからぬ発言をし、机にうな垂れていた。
お弁当箱を洗い終わっても、先輩は尚もつまらなそうで。このままにしていたら、本当に行かないんじゃないかって思えてくる。
……しょうがないなぁ。
肩を揺さぶり、行きましょうと言うものの、先輩は起き上がってくれない。