Sweet kiss〜眠り姫は俺様王子に捕まりました。
「会長が遅刻したらダメですってば」
「……わかったよ」
はぁ~と重いため息をつき、ようやく起き上がった――と思えば。
「っ?!」
「行く前に、充電させろ」
そう言って、先輩は私を引き寄せた。
じゅ、充電?
……もしかして、またキス!?
「だ、ダメですダメです! はは、早く学校っ」
「バ~カ。抱きしめるだけなんだ。――これぐらい許せ」
ぽんぽんっと、背中を撫でる先輩。
本当にキスはせずに、ただやさしく抱きしめるだけだった。
「……まだ、痛むか?」
頭にそっと触れ、心配そうな声で聞く先輩。
まだちょっと恥ずかしい気持ちが残りながらも、大丈夫ですと、小さく答えを返した。
「クラスでも……気を付けろよ?」
「……はい」
「それと、放課後も一緒に帰るからな」
「!? で、でも……」
「心配するな。他のやつも一緒だ。――行くか」
ぎゅ~っと、名残り惜しそうに抱きしめる先輩。すぐに行くのかと思えば、先輩は離す素振りを見せない。
「……あ、あのう」
行くかと言うわりには、一向に動く気配が無い。
でも、この感覚が心地よくて……遅刻するかもしれないってわかっていても、さっきみたいに言えなかった。――すると。
「―――! ―――?」
呼び鈴と共に、玄関の方から声が聞こえる。それは先輩にも聞こえたみたいで、深いため息と共に、ようやく私は解放された。
「ごめん紫乃ちゃん。待たせちゃって……」
「いいって。どうせそいつが駄々こねたんでしょ?」
呼び鈴を鳴らしたのは、もちろん紫乃ちゃん。後ろには賀来先輩も居て、私たちは四人で仲良く(?)登校した。
周りの視線がちょっと痛かったものの、そこは先輩たち二人のおかげか(この状況も先輩のおかげなんだけど)。爽やかに挨拶する二人に、周りは私たちのことなんて気にしないようだった。
――ただ、一人を除いては。
「アナタたち! 今朝のアレは何!?」
教室に向う途中、私たちは一人の女子から質問を受けていた。ネクタイを見れば、その人は青色。三年が何の用事かと思えば、どうして一緒に登校して来たのかと、やたらつっかかっていた。
そんな女子に、紫乃ちゃんはつまらなそうに答える。
「昨日私たち、仕事中にケガしたんですよ。それで心配してくれたんです」
そう言って、紫乃ちゃんは自分の頭に巻かれた包帯と、右手をひらひらして見せる。
「最近よく一緒にいるし……ホントは付き合ってるんじゃないの? ねぇ、どうなのよ!?」
あまりの剣幕に、私は押され気味で何も言えなかった。
尚も詰め寄る女子に、紫乃ちゃんが徐々に苛立っていくのが見てわかる。
なんとかキレないようにと宥めるものの、尚も聞いてくる女子が嫌なのか、紫乃ちゃんは深いため息をはく。
「ないない。ってか、もし仮に付き合うことになっても……関係無いと思いますよ?」
その視線は、さもお前には関係ないと言わんばかりで。感に障ったのか、女子は一気に怒りをあらわにする。
「ちょっと! 口の利き方悪いんじゃない!?」
「私は正論を言ったまでです」
「態度悪っ! そーいうの、生意気なのよ!!」
な、何この人!
自分のことは棚に上げておいて……。
「そっちこそ失礼です! 質問するなら、そんなケンカ腰になる必要ないじゃないですか!」
さすがの私も、声を大にして文句を言った。
私に言われることを予想してなかったのか。紫乃ちゃんに言われた時よりも、女子は更に顔を歪めた。