Sweet kiss〜眠り姫は俺様王子に捕まりました。

「そーいえばアンタ……いっつも生徒会室に行ってる子でしょ!? 何、自分は特別だとか思ってるの!?」

「あ~もうバカらしい! さっさと行こう」

「ちょっと! 逃げるんじゃないわよ!!」

 私と紫乃ちゃんは、教室まで走った。
 こんなに腹立たしいなんて、初めてかもしれない。



「――待てって言ってるでしょ!?」 



 追いかけて来た女子が、紫乃ちゃんの右手を握る。思わず足を止めたのをいいことに、女子はガッチリと、紫乃ちゃんの両腕を押さえた。
 それを見た私は、慌てて女子の腕を掴み、離すようにと説得する。けれど、私の声なんて聞こえないのか、女子は未だ怒りに満ちた顔をしていた。

「答えなさいよ……アンタ、隼人の何!?」

「っ! そう……だからそんなに」

「さっさと答えなさい!!」

 強く手を握られたのか、紫乃ちゃんは苦悶の声を微かにもらす。

「離して下さいよ! ケガしてるとこ握るなんて、そんなのっ」

「アンタは関係ない!」

「っ!?―――、……」

 勢いよく手を振り払われ、私は豪快に尻もちをついた。起き上がろうと手を突けば、倒れた時にひねったのか。左手首に、痛みが走っていた。

「ほら、答えなさいって!」

「別に、何も無いから」

「ホントでしょうねぇ……ウソついてんじゃないの!?」

 もう、この人に何を言っても通じない。そんな考えが過るほど、目の前にいる女子は迫力があった。
 未だ、しっかりと紫乃ちゃんの腕を掴んでいる女子。再び引き離そうとするも、びくともしてくれない。

「もう、アンタはジャマなの! 離して!!」

「そっちこそ、紫乃ちゃんを離して下さい!」

 周りにいる生徒も、どうしていいか困っているようで。私たちのやり取りを、ただ傍観(ぼうかん)しているしかできないようだった。



「――何してんのかなぁ~?」



 張り詰めた空気を破ったのは、なんとも緩やかな声。その声の方を振り向けば――にこやかな笑顔を浮べた、賀来先輩が近付いて来た。

「で、何してるの? もしかしてイジメ、とか?」

「ち、違うの……私、この子に注意をっ」

「へぇ~注意? にしちゃ、えらくつっかかってたよねぇ?」

 今目の前にいるのは、確かに賀来先輩。でもその様子は、とても笑顔だっていうのに――目の奥が、とても恐ろしく感じた。

「この子から離れな」

「は、隼人っ!」

「気安く……呼ばないでくれる?」

 その時の先輩は、どんな表情だったのか。顔を見た途端、女子は戸惑いながらもその場から立ち去った。

「よ、よか、った……」

 思わず、安堵の言葉がもれる。紫乃ちゃんもそうなのか、私たちはその場に膝を付いていた。

「紫乃ちゃん……手、大丈夫?」

「ちょっと痛む、かな。さすがにケガの部分ガッツリは効いたわ」

 ははっと、苦笑いを浮べる紫乃ちゃん。大げさにしたくないんだろうけど、私は心配で、保健室に行くことを薦めた。

「真白ちゃんの言うとおり。ってか、真白ちゃんも見てもらいな?」

 そう言って、先輩は私の手を指差す。どうやら、私が左手を擦っていることに気が付いたらしい。
 先輩に連れられれば、保健医の先生はちょっと驚いたような顔をした。
 無理もないよね。二日連続で来たんだもん。
 それから昨日のケガも見てもらい、私たちは教室へ戻った。



 思えば……これは、まだ序の口に過ぎなくて。



「勝手に動いてくれるから、楽でいいわ」



 遠くで、黒い笑みを浮かべながら笑うその人の存在に、気付くことができなかった。
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