Sweet kiss〜眠り姫は俺様王子に捕まりました。

 *****

 翌日、オレは朝から真白をからかっていた。
 ま、これがオレなりの愛情表現ってとこだ。戸惑う様子や潤んだ瞳を見てしまえば、理性がぶっ飛びそうになるが。
 登校する時間、オレは隼人と話しながらも、周りを見ていた。オレたちをじーっと見ているやつはいないか。不自然な動きをするやつはいないかと。



 ……和泉も、いないか。



 オレはまだ、和泉と接触していない。仕掛けるならそろそろだろうと思っていたが、登校中はさすがに、何も起きることなくたどり着いた。



「――――真白」



 別れ際、真白を呼び止める。そして小さな声で、

「次は、遠慮せずに知らせろよ?」

 と、囁いた。
 それが恥ずかしいのか、真白はただ頷いてそれに答え、素早く藤原の元へ行ってしまった。

「志貴、ちょっと近いよ?」

「これでも我慢してんだよ」

「ははっ。化けの皮がはがれるのも、時間の問題だろうねぇ~」

「そんなの、お前だって同じだろう?」

 階段を上っていれば、不意に、隼人は足を止める。何事かと思い聞けば、外を見ろと、隼人は言う。
 視線の先に見えるのは、二人の女子。一人は和泉で、笑顔で話している。対してもう一人の女子は、和泉に詰め寄っている。そしてしばらくすると、何処かへ勢いよく走って行った。
 残った和泉は、未だ笑みを浮かべながら、走って行った女子の方を見ている。

「――志貴」

 振り向けば、隼人から鞄を押しつけられた。

「ちょっ、何する気だ!?」

「ただの偵察~」

 気楽に言ってるが、目が笑ってない。
 あいつ……本当に何もしでかさないだろうな?

「――笑ってやがる」

 窓の向こうには、笑顔の和泉が見える。
 時間に余裕があることを確認し、鞄を置くと、オレは和泉の元へ向かった。
 向こうから動く前に、釘をさしてこう。



「――――和泉」



 呼べば、和泉はとても嬉しそうな笑顔を見せた。

「久しぶりねぇ~。元気にしてた?」

「悪いが、世間話するつもりはねぇーんだ」

「あら、こんなところで本性丸出しだなんて」

「お前に気遣うつもりはないんでね」

「そんなことして、困るのは志貴の方でしょ?――話があるなら、上に行きましょうよ」

 腕を組み、そんな提案をされた。

「――あぁ。けど、この手は放せ」

 振りほどけば、残念ねぇ~と、和泉はつまらなそうに言った。

「まぁいいわ。話があるんでしょ? 早く行きましょ」

 屋上に行くと、ドアの裏側に回った。
 ここなら邪魔は入らない。
 すぐさま、オレは本題を切り出した。

「お前――何しに戻って来た」

「そんな怖い顔しないでよ。イケメンが台無しよ?」

「いいから答えろ! なんで、今頃になって戻って来た」

「そんなこと言われても。帰って来い、っておじいちゃんに言われたからよ?」

「……嘘じゃねぇーだろうな」

「家の者に聞いても構わないわよ。――それとも」

 ニヤリ、怪しい笑みを浮かべる。
 そして間近に来るなり、

「志貴を奪いに来た、って言う方が、お気に召すかしら?」

 ん? と、オレの出方を見る。
 帰れと言われた話が、現時点で嘘とはわからない。仮に本当だったとしたら、こいつが真白に手を出すことはないだろう。――だが、念には念を。

「なら、もう馴れ馴れしくするな」

「そんな言い方しなくても。そんなに私が嫌い?」

「あぁ、嫌いだ」

「ハッキリ言うのね。あんなに仲良しだったのに」

「昔のことだ。オレには大事なやつがいる。余計なこと、するんじゃねぇーぞ」

「あ~例のあの子? カワイイわよねぇ~。――イジメ甲斐がありそうで」

 途端、和泉を壁に追い込んだ。
 イジメ甲斐がありそうと言う言葉に、こいつは本当にするんじゃないかと、不安が過った。

「さっきよりも怖い顔しちゃって~」

「……黙れ」

「私は何もしてないじゃない。そんなに気になるなら、志貴がそばにいればいいことでしょ? なのにこうして私といるなんて――」

 左手に、和泉が触れる。
 持ち上げると、オレの手を自分の胸に押し付けた。

「あの子じゃ役不足ってことなんじゃない? 私は――志貴となら、いいって思ってるのよ?」

「お前っ――!?」

 腕を引き、和泉がその場に座り込む。
 咄嗟に手を出したが、オレは和泉に覆いかぶさるように倒れていた。

「学校でってのも、なんだが燃えるわね」

「……やるわけねぇーだろう」

 すると和泉は、腕を掴みながら顔を間近に寄せた。

「あの子と付き合ってたら、いつになるかわからないわよ?」

「んなこと、関係ねぇーだろうが」

「あるわよ。だって――」

「っ!?」

「私、まだ志貴が好きだもの」

 一瞬の隙に、和泉がキスをしてきた。
 勝ち誇った笑みを浮かべ、和泉は楽しそうに言う。

「それに、志貴だって本気じゃないんでしょ? 今までそうだったじゃない」

「オレは本気だ!――これ以上関わるな」

 吐き捨てると、和泉をそのままにし、オレは屋上から去った。



「そんなこと言われても――今度は、志貴の方から関わってくるのにね」



 和泉の企(たくら)みなど知らないまま。オレは苛立った気分で、教室に戻っていた。
< 48 / 90 >

この作品をシェア

pagetop