Sweet kiss〜眠り姫は俺様王子に捕まりました。
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翌日、オレは朝から真白をからかっていた。
ま、これがオレなりの愛情表現ってとこだ。戸惑う様子や潤んだ瞳を見てしまえば、理性がぶっ飛びそうになるが。
登校する時間、オレは隼人と話しながらも、周りを見ていた。オレたちをじーっと見ているやつはいないか。不自然な動きをするやつはいないかと。
……和泉も、いないか。
オレはまだ、和泉と接触していない。仕掛けるならそろそろだろうと思っていたが、登校中はさすがに、何も起きることなくたどり着いた。
「――――真白」
別れ際、真白を呼び止める。そして小さな声で、
「次は、遠慮せずに知らせろよ?」
と、囁いた。
それが恥ずかしいのか、真白はただ頷いてそれに答え、素早く藤原の元へ行ってしまった。
「志貴、ちょっと近いよ?」
「これでも我慢してんだよ」
「ははっ。化けの皮がはがれるのも、時間の問題だろうねぇ~」
「そんなの、お前だって同じだろう?」
階段を上っていれば、不意に、隼人は足を止める。何事かと思い聞けば、外を見ろと、隼人は言う。
視線の先に見えるのは、二人の女子。一人は和泉で、笑顔で話している。対してもう一人の女子は、和泉に詰め寄っている。そしてしばらくすると、何処かへ勢いよく走って行った。
残った和泉は、未だ笑みを浮かべながら、走って行った女子の方を見ている。
「――志貴」
振り向けば、隼人から鞄を押しつけられた。
「ちょっ、何する気だ!?」
「ただの偵察~」
気楽に言ってるが、目が笑ってない。
あいつ……本当に何もしでかさないだろうな?
「――笑ってやがる」
窓の向こうには、笑顔の和泉が見える。
時間に余裕があることを確認し、鞄を置くと、オレは和泉の元へ向かった。
向こうから動く前に、釘をさしてこう。
「――――和泉」
呼べば、和泉はとても嬉しそうな笑顔を見せた。
「久しぶりねぇ~。元気にしてた?」
「悪いが、世間話するつもりはねぇーんだ」
「あら、こんなところで本性丸出しだなんて」
「お前に気遣うつもりはないんでね」
「そんなことして、困るのは志貴の方でしょ?――話があるなら、上に行きましょうよ」
腕を組み、そんな提案をされた。
「――あぁ。けど、この手は放せ」
振りほどけば、残念ねぇ~と、和泉はつまらなそうに言った。
「まぁいいわ。話があるんでしょ? 早く行きましょ」
屋上に行くと、ドアの裏側に回った。
ここなら邪魔は入らない。
すぐさま、オレは本題を切り出した。
「お前――何しに戻って来た」
「そんな怖い顔しないでよ。イケメンが台無しよ?」
「いいから答えろ! なんで、今頃になって戻って来た」
「そんなこと言われても。帰って来い、っておじいちゃんに言われたからよ?」
「……嘘じゃねぇーだろうな」
「家の者に聞いても構わないわよ。――それとも」
ニヤリ、怪しい笑みを浮かべる。
そして間近に来るなり、
「志貴を奪いに来た、って言う方が、お気に召すかしら?」
ん? と、オレの出方を見る。
帰れと言われた話が、現時点で嘘とはわからない。仮に本当だったとしたら、こいつが真白に手を出すことはないだろう。――だが、念には念を。
「なら、もう馴れ馴れしくするな」
「そんな言い方しなくても。そんなに私が嫌い?」
「あぁ、嫌いだ」
「ハッキリ言うのね。あんなに仲良しだったのに」
「昔のことだ。オレには大事なやつがいる。余計なこと、するんじゃねぇーぞ」
「あ~例のあの子? カワイイわよねぇ~。――イジメ甲斐がありそうで」
途端、和泉を壁に追い込んだ。
イジメ甲斐がありそうと言う言葉に、こいつは本当にするんじゃないかと、不安が過った。
「さっきよりも怖い顔しちゃって~」
「……黙れ」
「私は何もしてないじゃない。そんなに気になるなら、志貴がそばにいればいいことでしょ? なのにこうして私といるなんて――」
左手に、和泉が触れる。
持ち上げると、オレの手を自分の胸に押し付けた。
「あの子じゃ役不足ってことなんじゃない? 私は――志貴となら、いいって思ってるのよ?」
「お前っ――!?」
腕を引き、和泉がその場に座り込む。
咄嗟に手を出したが、オレは和泉に覆いかぶさるように倒れていた。
「学校でってのも、なんだが燃えるわね」
「……やるわけねぇーだろう」
すると和泉は、腕を掴みながら顔を間近に寄せた。
「あの子と付き合ってたら、いつになるかわからないわよ?」
「んなこと、関係ねぇーだろうが」
「あるわよ。だって――」
「っ!?」
「私、まだ志貴が好きだもの」
一瞬の隙に、和泉がキスをしてきた。
勝ち誇った笑みを浮かべ、和泉は楽しそうに言う。
「それに、志貴だって本気じゃないんでしょ? 今までそうだったじゃない」
「オレは本気だ!――これ以上関わるな」
吐き捨てると、和泉をそのままにし、オレは屋上から去った。
「そんなこと言われても――今度は、志貴の方から関わってくるのにね」
和泉の企(たくら)みなど知らないまま。オレは苛立った気分で、教室に戻っていた。