Sweet kiss〜眠り姫は俺様王子に捕まりました。
Episode4…意識します。〈後編〉
昼休み、私は生徒会室に行くのを躊躇(ためら)っていた。また今朝みたいなことがあったら怖いし、何より、周りに迷惑をかけたくない……。
「紫乃ちゃ~ん、真白ちゃ~ん」
廊下から名前を呼ばれる。視線を向ければ、そこには翠先輩が。手招きする先輩に、私と紫乃ちゃんは廊下へと出た。
「一緒に行きましょう」
笑顔で言われ、私たちは言葉を詰まらせた。
「というより、今日は絶対に来てほしいの。――今朝のこともあるからね」
少し表情を崩す先輩。賀来先輩から聞いているんだろう。そのことについて話すのだと分かった私たちは、お弁当を持って生徒会室へと向った。
「「失礼しま~す」」
二人で挨拶をしながら入れば、
「紫乃ちゃん!」
突然賀来先輩が、紫乃ちゃんの手を握ってきた。
「志貴、部屋借りるから。入るなよ!?」
「ちょ、ちょっと先輩?!」
慌てる紫乃ちゃんのことなんてお構いなし。二人は、奥の部屋へ入って行った。
な、何があったんだろう……。
あまりに急な出来事に、私はドアの前でぽかーんと呆けてしまった。
「真白ちゃん、とりあえず入りましょう」
「そ、そうですね……」
いつもの席に座ろうとすれば、梶原先輩が無言で隣を指差す。
これは……座った方が、いいよね。
雰囲気から察して、ここは隣がいいと判断した。何か嫌なことでもあったのか、先輩は酷く険しい表情を浮かべていた。
中には梶原先輩しかなくて、今日は晶先輩は来ないらしい。
「さてと。まずは真白ちゃん、手は大丈夫?」
「あ、はい。ちょっと動かし辛いですけど」
「そう。でも、しばらくは色々と大変そうね?」
「大丈夫です。これぐらい、なんとかなりますから」
笑って見せれば、無理はしないのよ? と、翠先輩は言った。
それはもう、充分にわかってます。
だって無理をしようものなら……隣にいる人から、イジメられそうですし。
「……本当に、無理するなよ?」
「は、はい。――あのう。先輩?」
「何だ?」
「えっと……離して、ほしいんですけど」
私は今、背中から抱きしめられる形になっている。背もたれがあるから、まだ直接触れていない分、恥ずかしさはそこまでないけど……この状況は、とても落ち着かない。
「…………」
「あのう……先輩?」
無言を貫く先輩。
絶対聞こえてるはずなのに、回した腕を離してくれない。
「真白ちゃん、今は許してあげてくれないかしら? 志貴くんずっと機嫌が悪くて――真白ちゃんが宥(なだ)めてくれると助かるわ。このままじゃあ、仕事もしない勢いだもの」
そう言って、翠先輩は一枚の紙を見せる。
「?――た、確かに」
「そうでしょ? いざとなれば出来るんでしょうけど、早くしてほしいわ」
翠先輩が見せてくれたのは、白紙の原稿用紙。そこには付箋(ふせん)で“体育祭会長挨拶”と記されていた。どうやら先輩は、まだ何も考えてないらしい。
「だから、志貴くんのやる気を出させてもらえないかしら?」
「が、頑張ります」
「よろしくね。――じゃあ、私は用事があるから」
「えっ!?」
こ、このままの状態で二人きりにされたら……絶対、先輩は迫って来るんじゃ!
「東雲(しののめ)によろしくな」
「えぇ、言っておくわね」
「す、翠先輩っ!!」
私の呼びかけも虚(むな)しく、翠先輩は笑顔で生徒会室を出て行った。
「ようやく――二人きりだな」
耳元から、甘い先輩の声が聞こえる。
「よ、ようやくって……今朝も、一緒に居ましたよ?」
「今日は足りねぇーんだ……真白」
離れたと思えば、先輩は私の前に座りなおし、
「どうしても……したい」
申し訳なさそうに、指でそっと、唇に触れた。