Sweet kiss〜眠り姫は俺様王子に捕まりました。
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生徒会の仕事を終えると、まっすぐ寮へと帰った。
今日は朝から散々だったが、最後には面白そうなやつを見つけたから、少しはマシな気分になってきていた。
着替えを済ませると、オレはとある人物の部屋を尋ねた。二回ほどノックをし、中から返事がしたのを確認してからドアを開ける。
「隼人、ちょっと知りたい女子がいるんだが」
「えっ……マジで?! 志貴から聞くなんて珍しー」
話しているのは、友達の(どちらかといえば悪友だが)賀来隼人(かくはやと)。こいつはやたら女子に詳しい、いわゆる遊び人といった印象を受けるやつ。――これでも、一応は副会長という責務を担っている。
「いいから聞け。二年の望月真白ってやつ、知らないか?」
「あぁ~その子なら有名じゃん。通称【眠り姫】って言われる子だよ。長いキレイな黒髪に、背もちっちゃくてカワイイんだよねぇ~」
「……そんなに有名なのか?」
「志貴が興味なさ過ぎなんだよ。結構三年でも知ってるやつ多いけど?」
言われても、オレはそいつのことを知らない。確かにそういう噂には疎いが、そこまで周りが知っているものなのかと、首を傾げた。
「ってか、なんでその子のこと聞きたいの? まさか惚れたって言うんじゃあ……」
「……アレを見られた」
それを聞いて、隼人は事情を察した。学校でするなよと言われ、呆れたように言葉を口にする。
「よっぽどイラついてたんだな?」
「イラつきたくもなるさ。香水キツいやつに抱きつかれたんだからな」
「香水……? あ、もしかして花梨(かりん)ちゃん?」
無言で頷くと、やっぱりかぁと、隼人は苦笑いを浮かべた。
一般的にはそこまでキツくない匂いかもしれないが、オレにはそういうのが気になってしまう性質(たち)なんだ。
「そいつのことはいいから、二年の話」
「詳しくって言っても……大人しくて真面目で――休み時間、よく寝てることが多いかな? だから【眠り姫】って言われてるみたいだけどね」
よく眠ってるって……普段から寝てないのか?
とりあえず、他の女子みたいに騒ぐやつでないことは確かなようだ。
改めて、オレはほっと胸を撫で下ろした。
そして隼人にも、その女子が生徒会に入ったことを伝えると、あからさまにテンションを上げ始めた。
「マジで!? それなら……真白ちゃん、狙ってみようかなぁ~」
「お前さぁ、いい加減やめたらどうなんだ?」
「別に、お互い合意ならいいだろう? それにオレ、結構マジだからさ」
ふふっと、隼人は怪しく微笑む。
またいつもの冗談かと思ったが、珍しくオレに、手を出すなよ!? と念を押すから、本気なのかと思ってしまう。
「ま、別に関係無いがな。会室、勝手に使うなよ」
「ははっ! それなんか燃えそう」
「だから使うなって言ってるだろう? 副会長がそんなことしたら、いい笑い者だぞ」
そんなことをすれば、後の生徒会に不名誉な先輩として語られるだろうが――こいつはそれをも楽しみそうだから、本気で注意する必要があるな。
「まぁその子が入るのはいいとして……志貴、ずっと見張ってるつもり?」
「一応はな。ま、あの分じゃ余計なこと言わねぇーだろうけど」
軽く威圧したし、何より、男に免疫がないなら逆らうことはないだろう。
「相変わらずSだよなぁ~。ってか、意外と気に入ってる? 今まで見られても、そーやって手元に置くようなこと、したことないだろう?」
「別に。あいつ、反応が面白いんだよ」
「うわぁ~。真白ちゃん可愛そう」
それから話題は別な物へと変わり、いつものように、隼人と面白おかしい話をしながら盛り上がっていた。
さてと……後は、あいつにでも聞いてみるか。
もう一人詳しそうなやつに話を聞こうと、オレはそいつに、久々に連絡を取った。