Sweet kiss〜眠り姫は俺様王子に捕まりました。
先輩……どうしちゃったんだろう?
どこか辛そうで、何か、嫌なことがあったように思えてならない。
キスをせがまれているのに、今は恥ずかしいとか、そんな感情は湧かなくて。
「何か……あったんですか?」
先輩の様子が、気になって仕方なかった。
「なんだ、心配してくれるのか?」
ニヤリと怪しい笑みを浮かべると、先輩は私の頭に手の平を置く。
「そ、それはもちろん……」
「“恋人だから”か?」
「っ?!」
そ、そんなハッキリ言われたら……恥ずかしいよ。
思わず俯く私に、先輩はくすくすと笑いをもらす。
「わかりやすいな。ま、こっちも色々あったんだよ」
「それ、聞いてもいいですか?」
「あぁ。だが、いい話じゃないからな」
それから先輩は、朝にあった出来事を話してくれた。
和泉さんを見かけて、自分から話しかけたこと。
そして、そこでまた復縁を迫られキスをされたことを。
話を聞いていくと、やっぱりまだ諦めていなかったことが怖くて……表情は、徐々に暗いものへと変化していった。
「…………」
「そんな顔するな。ほら、こっちに来い」
そう言って、先輩は自分の膝の上を指差す。
「っ! そ、それはさすがに……」
「誰も来ないし、ここには二人しかいねぇーよ」
「お、奥に二人いますよ!」
紫乃ちゃんと賀来先輩が、いつ出て来るかわからないし……。
「心配するな。休み時間が終わるまで来ない」
そういう約束だと言い、先輩は顔を近付けてくる。
「だから、大人しくこっちに座っとけ、な?」
?……いつもと、違う。
いつもならもっと強引に引っ張ったり、悪戯するなりするのに。それだけ、気分的にまいってるのかなぁ?――これで先輩が落ち着くなら、今は、誰もいないし。
「…………少しだけ、なら」
立ち上がれば、先輩は私の手を引いて、向き合って座れと言う。でも、まだそこまでする勇気は無くて。
「う、後ろ向きが、いいです」
「ま、最初は仕方ないか。―――やっぱ、こうしてると落ち着くな」
足の間に座れば、背中からそっと抱きしめられる。左肩には先輩の顎が置かれ、私は思わず、反対の方向を向いていた。
「ふふっ、まだ慣れないんだな?」
「あ、当たり前ですよ……」
「付き合ってるんだ。オレはこうしてるのがいいが……真白は、違うのか?」
「っ?! み、耳元はやめて下さいって!」
「無理。言っただろう? 反応がいいからな」
うぅ……やっぱり、先輩は意地悪だ。
ちょっとくらい落ち込んでいようと、こういうことをするのは相変わらずなんだから。
「なぁ……真白」
先輩の手が、頬に触れる。ゆっくりと力が加わり、顔が徐々に、先輩の方を向くようにされて、
「したいんだ……いいか?」
そう言って、先輩は真剣な眼差しを向けた。
いつもの先輩なら、黙ってたら確実にやるだろう。それこそ、隙あらばいつでも。でも、今の先輩はそれ以上何もしなくて……自分で言い出したことを、本当に守ってくれていた。
嫌なわけじゃないし、ちょっとぐらい、なら。
「か、……軽いので、あれば」
なんとか言葉を発すれば、先輩は意外だったのか、一瞬、きょとんとした表情を見せた。
あんな激しいのをされたら、この後の授業に身なんて入りそうもない。だから、本当に軽いのならと念を押せば、
「出来るだけな」
「っ?!…、……んっ」
か、軽いのっていったのに!
最初は軽かったけど、すぐにいつものような、ついばむキスが何度も繰り返された。
おまけに先輩は、私の体をさっと横向きにして、更に密着してきて――。
唇だけでなく、体ごと全て奪うような勢いがあった。
な、なんだか……前と、違う。
いきなりしても、少しはペースを考えてくれてたのに――まともに息すらできないこの行為は、とても乱暴に思えた。