Sweet kiss〜眠り姫は俺様王子に捕まりました。
「……悪い」
唇を離すと、先輩はなんとも申し訳なさそうに言葉を発した。
まだ息を整えられなくて、私は俯いたまま、先輩の言葉を聞いていた。
「今日は……自分勝手だった。嫌な思いさせて、悪かったな」
そっと、頭に置かれる手の平。
先輩から紡がれた音声は悲しくて、自分でも抑えきれなかったことを後悔しているように思えた。
でも、別に先輩を責めようとかはない。いつもこういうことをされるのは嫌だけど……きっと、今は余裕がないだけだと思うから。
「……謝ってくれましたから、いいです」
私は、先輩を許すことにした。
「それよりも。ご飯、食べましょう?」
早く食べないと、昼休みが終わっちゃうし。
「あぁ。そうするか」
それから二人して、一緒にお弁当を食べた。しばらくしたら紫乃ちゃんたちも出て来て、四人で仲良く、楽しい昼食を囲んだ。
*****
この日、学校では特に何も起きることはなかった。
和泉は浅宮と同じクラスらしく、帰り際に話を聞いたが、浅宮はなんとも疲れた顔をしていた。
ま、実際に手を出されたんだから当たり前か。
和泉が主犯だってことは公(おおやけ)になってないから、他の生徒は知らない。
知ってるのは、オレと隼人。そして、晶と東雲だけだ。
「――そっちは大丈夫なのか?」
寮へ帰ると、隼人の部屋で寛ぎながら、今日のことを話していた。
「オレのとこにはなーんも」
「お前の心配じゃねぇーよ。藤原だよ、藤原」
隼人は、一番手を出される可能性が低い。敵に回すと厄介なのは、和泉も知ってるからな。だとすれば、手を出されるのは周り――隼人で言えば、藤原に手を出される可能性が高い。
「一応、ケータイですぐわかるようにはしたけどね。出来れば東雲(しののめ)さんの手は使いたくないけど」
「なんだ、そこまでやってんのか?」
「まーね。志貴もやっとけば? 亜由ちゃんのことがなくても、真白ちゃんっていつ倒れるかわからないんだし」
……確かに。気は進まないが、考えた方がいいんだろうな。
「真白がいいって言えばな」
「あ、やっぱりそーいうのって嫌なのかなぁ?」
「普通はそうだろう? 防犯とはいえ、自分の位置情報教えてくれって言うんだからな」
「あははっ……ヤバい、かも」
苦笑いを浮かべる隼人。聞けば、昼休み会室の奥の部屋で、強引に迫ったらしい。
「いやぁ~オレも久々に危機感あったからさ。早くしとかないとって」
「その分だと、他にも暴走したな?」
「…………」
「黙っててもわかるぞ。ったく、くっつくなら早くくっつけ」
でなきゃ取られるかもな、とからかいながら、世間話を続けた。
◇◆◇◆◇
寝る準備をしていると、携帯が光っていた。開くと、そこには大量のメールが送られていて。
「――――なにっ、これ」
送られていたのは、知らない宛先ばかり。でも、送られてきたメールは、どれも似たような内容だった。
〝居眠り菌がうつる~www〟
〝眠り姫ウザい。死ネ、イイ気になるな〟
〝そんなに男が好きなら、風俗で働けばいいのに〟
死ねとか、ウザい。
嫌な言葉が、たくさん並んでる。
……気持ち悪い。
こんなメール、残していたくない。
チェックを入れ、一斉にメールを削除した。