Sweet kiss〜眠り姫は俺様王子に捕まりました。
「じゃあ、私は教室に戻るわね」
立ち上がる翠先輩に、晶先輩も続く。
「オレも、そろそろ戻る。悪いが、戸締まりを頼めるか?」
「はい、もちろんです」
「なら真白ちゃん。もし二人が来なかったら、このお弁当は隣の部屋に置いてて。後から片付けるから」
返事をすると、先輩たちは会室から出て行った。
机に残っているお弁当箱は三つ。この分だと来ない気がしたので、私は先に、隣の部屋にお弁当箱を置いておくことにした。
二人して雑談をしていると、パタパタと走ってくる音が聞こえ――勢いよく、会室のドアが開かれた。
「――あれ? いるのって二人だけ?」
現れたのは賀来先輩。
翠先輩たちはもう戻ったと言えば、待たせてごめんねぇ~と手を合わせ謝ってきた。
そんな先輩に、紫乃ちゃんは早く食べることをすすめた。
「先輩、お弁当は隣。早く食べないと、休み時間終わっちゃいますよ?」
「うわっ、本当だ!」
隣の部屋に入るなり、先輩は全てのお弁当を持って来た。
まさかとは思うけど……。
「先輩、全部食べるんですか?」
「もっちろん! 動いた後だから、これぐらい余裕~」
よ、余裕で食べちゃうんだ。
先輩って、食費だけでどれぐらい使っちゃうんだろう?
「相変わらず、ブラックホールな胃袋ですね」
「ははっ。さすがに毎食こうじゃないから」
「知ってますよ。お昼だけなんですよね?」
「そうそう。でないと、食費かかり過ぎだからね。――あ、やっと来た」
私の背後を見て笑う先輩。後ろを見れば、少し息が荒い梶原先輩が立っていた。
「はっ、はぁ――…。悪い、遅れた」
「そ、そんな、謝ることじゃないですから」
だって、こうして急いで来てくれたんだし。
ちょっと会えるだけでもうれしいから。
「そう言えば、放課後の仕事は聞いてるか?」
「翠先輩から、二人でコピーをって頼まれました」
「コピー? 役員分のやつか?」
「はい。あと、それが終われば帰っていいと言われました」
「――――ふ~ん」
「志貴~あと五分」
もう、そんな時間なんだ。
「真白、そろそろ戻るよ」
「う、うん。――それじゃあ先輩、また」
挨拶をすると、私たちは会室をあとにした。
*****
「な~んか、真白ちゃん残念そうだったねぇ?」
ニヤニヤとした表情で言う隼人に、オレは少し疑問を感じていた。
なんか――違うんだよなぁ。
いつものように近付いても(抱きついたりはしてないが)、恥ずかしがる様子が無かった。
それだけオレに懐いてくれたんだろうが、
「やっぱ、気になるんだよなぁ」
「何が~?」
「真白だよ。やけに淋しそうな顔に見えたからな」
「心細いんじゃないの? それに、今日はちょっとしか会ってないだろう?」
「片付けやら女子の呼び出しやらで時間くってたんだよ」
「へぇ~。モテるやつは大変だねぇ~」
……人事みたいに言いやがって。
「お前だって呼び出されてだろう?」
聞けば、隼人はあっさり呼び出されていたことを認めた。
オレから見れば、こいつの方が呼び出し率は高い気がする。
「行ったよ。んでもって、速攻で返事した。誰かさんみたいに話聞いてたら、時間無くなるからね」
「せめてもの誠意ってやつなんだよ」
本当なら、隼人のようにぱぱっとして戻りたい。
だがどんな経緯であれ、好意を持ってくれたのなら言葉だけは聞いておこうと、オレの中で決めていることだった。
「プレゼントや弁当は食べないくせに、そーいうとこは真面目なんだから」
「うるせぇーな。お前こそ、告白は受けないくせに、プレゼントや弁当はいいのかよ」
「そこはオレのポリシ~。貰えるものは貰っておこうってね」
「ふ~ん。だからセフレも作るのか」
今の言葉だと、来る者拒まず、って言ってるようなもんだしな。
「いやいや。作るとかやめてくんない? 清算したんだから、オレはフリーなの!」
「あ~そうだった。藤原の為に切ったんだもんな?」
ニヤリ、笑みを浮かべながら言えば、隼人は困った表情を見せた。
「だから、なんでいつもそーなるかなぁ……」
「悪いが、お前がきちんとするまで、これは続くからな」
「何それ。ちょっとした脅迫じゃん! 付き合うまでやるつもり!?」
「さぁ~な。でも、浅宮は続けるかも」
「す、翠ちゃんの圧力って……」
いよいよ脅迫じゃんかぁ~、と嘆く。
頼むから大人しくしてほしいと、浅宮の行動を気にしていた。
ま、からかいはするが、余計なことをするつもりはねぇーからな。
そこは大丈夫だと念を押し、二人で会室をあとにした。