Sweet kiss〜眠り姫は俺様王子に捕まりました。
「――――ふふっ」
思わず、そばにあったクッションを抱え笑った。
嫌な顔されるんじゃないかって不安がまだあったから、なんだかうれしいなぁ。
「――何ニヤついてんだ?」
突然目の前に、先輩の顔が現れた。
驚いて起き上がれば、頭がくらっとして前のめりになってしまった。
「急に起きると危ないだろう」
「せ、先輩の方こそ。急に来たら、驚くじゃないですか」
「声はかけたぞ? そしたら、お前がニヤニヤ面白い顔してから眺めてた」
「ニヤニヤって……」
「で、何考えてたんだ?」
怪しい笑みを浮かべ、迫る先輩。
思わず後ずさりしたものの、ソファーにいるからそんなにさがるスペースも無く。
「真白、何考えてたんだ?」
ん? と、私の周りを両手で囲い、もう一度聞いてきた。
「え、っと……」
嫌な顔されなかったのがうれしかったなんて言ったら、まだ気にしてたのかって言われちゃいそうだし。
「…………」
「なんだ。エロいことでも考えてたのか?」
「ち、違います! ただ……先輩が」
クッションに顔を埋め、先輩から視線を外す。
こうでもしないと、恥ずかしくて言いにくい。
「オレがどうした?」
「先輩が……嫌な顔、しなかったから」
体調が悪くなったさっき、嫌な顔せず普通にしてくれたのがうれしかった。それで笑っていたのだと、ゆっくり伝えた。
「だ、だから。変なこと考えてたわけじゃ、ないんですよ?」
ぎゅっと、クッションを強く抱いた。
「――真白」
しばらくして、やさしく名前が呼ばれた。
顔を上げれば、怪しい笑みを浮かべた先輩が見えた。
「お前、煽るの上手すぎ」
「? あおるって――」
「仕事中構ってほしそうに見てたり、普通にしたのがうれしかっただの――オレを試してるのか?」
ふぅっと、耳元で囁かれる言葉に、なんだか、むずがゆい感覚が体を走った。
「べ、別にそんなつもりはっ」
「せっかく真白から誘ってくれたんだ。堪える必要はねぇーよな?」
ちゅっ、と耳元で音がした。
思わず身をよじれば、体を引き寄せ、首に先輩の唇が触れた。
「真白が悪りぃんだぞ? 可愛いこと言いやがって」
首に、幾つもキスが落とされる。
その度に、体は痺れるような、熱い感覚に包まれていった。
「ん、っ!……」
「なんだ、感じてんのか?」
「くすぐ、ったくて」
「それを感じてるって言うんだよ。――真白」
顎に、手が添えられる。
そして真っすぐ、私の瞳を見つめた。
「お前は――どうしたい?」
悪戯っぽい笑みを浮かべ、そんな質問をしてきた。
ど、どうしたいって。
「まーしーろ。答えは?」
「…………」
このままなのは――もどかしい、けど。
そんなこと、恥ずかしくて言えないよ。
「――なら、もう帰るか」
抱き寄せるのをやめ、先輩は距離を取った。
本当に……もう、帰るの?
「嫌がることはしないって約束だろう? ほら、帰るぞ」
手を差し伸べる先輩。
本当に帰るんだと思ったら……なんだか、その手を握るのが嫌になった。
「――――あ、あのう」
「どうした? 帰らないのか?」
「か、帰ります。帰りますけど……。まだ、ここにいたい、です」
私には、そう言うので精一杯だった。
「いるだけでいいのか?」
「いるだけ、というかっ」
頬に、先輩の手が触れる。
それだけで泣いてしまいそうな、よくわからない感覚が、全身を駆け巡った。