Sweet kiss〜眠り姫は俺様王子に捕まりました。
Episode5…胸が痛いです。〈前編〉
変なメールが来るようになって数日。
相変わらず内容は嫌なものばかりだけど、ちょっと慣れが出てきた。
紫乃ちゃんにも、今のところ何も無い起きてない――はずなんだけど。
「紫乃ちゃん、今日はムリだって」
「ん~……らって、テストはんひ」
かわりに、と言うか。酷い夏風邪にかっていた。
休みたくないと言う紫乃ちゃんに、私は体温計を見せた。
「40℃。これでも行くつもり?」
「らって……かい、きんしょ、が」
(だって……皆勤賞が)
もう、呂律が回らないっていうのに。
「ダメだよ。――ほら、薬飲んで休まなきゃ」
「うぅ~……」
よっぽど悔しいのか、紫乃ちゃんは布団に潜ってしまった。
「ちゃんと飲まなきゃダメだからね? いつもの薬も、ここに置いておくから」
「わぁっ、てゆう。――のんだ」
(わかってる。――飲んだ)
「じゃあ、私は行くね。何かあったら、連絡して」
飲むのを見届けてから、私は寮の外に出た。
しばらくすると、先輩たちがいつものようにやって来た。
「藤原はどうした?」
「風邪をひいて寝てます」
「あいつが休むなんて、よっぽどなんだな?」
「はい。熱も高いし、呂律も回ってなくて」
本当は、残して行きたくないんだよね。
一人で部屋にいるのって淋しいし、こういう時は、余計心細くなるっていうのをよく知ってるから。
「だから、できれば早めに帰りたくて」
「なら、放課後は真っすぐ帰ってやれ」
「いいんですか?」
「あぁ。仕事は特に無いからな。もしあっても、隼人が喜んでやる」
「ちょっ、何その目……。志貴、オレに丸投げするつもりじゃ」
「黙秘する」
「鬼~! 志貴の鬼!!」
梶原先輩のことだから、本当に丸投げしそう。
「あのう……賀来先輩一人にさせたりなんてこと」
「んなことしねぇーよ」
ぽんっ、ぽんっと、頭を撫でながら先輩は約束した。
本当にしないならいいけど……。
「――――賀来先輩」
校門で別れる前に、賀来先輩を呼び止めた。
「もし、丸投げされたら教えて下さい」
「ははっ、心強いね。叱ってくれるの?」
「そんな、叱るまではしませんけど」
「じゃ、その時はお願いね」
またお昼に、と言い、先輩は笑顔で去って行った。
◇◆◇◆◇
「望月さーん」
クラスの女子から呼ばれ、私は廊下に出た。
「そろそろ、次の準備しよう」
次の授業は理科。出席番号順に準備をすることになっているから、その子と一緒に、みんなより早めに理科室に向かった。
「テーブル拭くから、望月さんはシャーレ取って来て」
言われて、隣にある準備室に向かった。
確かこの棚に――。
置かれていたのは、棚の一番。なんとか届くけど、奥に入っているのを取るには高さが足りない。
毎回のことだけど、これで背の低さを痛感させられるんだよね。
棚から必要な数を取り出していると――軽く、体がよろめいた。
あ、危ない危ない……。
思わず、シャーレを落としそうになった。
多分、このままだと動けなくなりそう。
動けるうちに、シャーレ全部運んだ。