Sweet kiss〜眠り姫は俺様王子に捕まりました。
「出すのかかり過ぎ。もっとテキパキやって」
「遅くてごめんなさい。あと私、ちょっと保健室に……」
「待ってよ。これ汚れてるから、違うのと取り換えてから行って」
「……うん、わかった」
やることが本当に遅いから、言われるのも仕方ないんだけど。
「ほら、早くしてって」
こうやって、睨まれながら言われるのは苦手だな。
もう一度、隣に行ってシャーレを取り換えていれば、
「――っ!」
がくん、と体に重さが加わった。
「……もうっ、ちょっと」
眠くなるの、待ってよ。
膝が床に付き、視界がぼやけていく。
おまけに、今日のは呼吸までおかしいし――。
「っ、……ぅあ、…」
だ、めっ。
めい、わく――かけちゃ。
手にしているシャーレを落とすまいと、腕を伸ばし、机の上に置いた途端――体から一気に、力が抜けて行った。
*****
ようやく、四限目の授業が終わった。
会室に行こうと隼人を誘えば、またしても、女子から呼び出しをくらったらしい。
「早めに行くから、残しておいてねぇ~」
今回の犠牲者は二年。
後輩だからやさしくするだろうが――。
「とりあえず、泣かせるんだろうな」
オレは泣かれるのは面倒だから、そこは気を付ける。
ま、泣けばどうにかなるってタイプの女は無視だが。
「――志貴、今日は三つ」
会室には、晶が来ていた。
浅宮は用事があるとかで、今日は来ないらしい。
「それからこれ。手紙が四つ」
「渡されてもなぁ……」
「オレだって困る。とりあえず、処分は自分でしてくれ」
手紙を受け取り、名前を見る。三つは知らないやつだったが、一つだけ、見覚えのある名前があった。
「ったく、またあの香水女か」
手紙にも似たような臭いがついてやがる……。
こいつ、鼻がおかしいんじゃねぇーのか?
試しに晶にもかがせてみせると、軽く眉間にしわを寄せていた。
「やっぱ、こいつのきついよな?」
「あぁ……。志貴ほど気にはしないが、これはオレも苦手だ」
「だよなぁ――?」
ポケットから携帯を出して見ると、藤原からの着信が入っていた。
メールでなく電話?
珍しいこともあるなと、藤原に電話をかけた。
『――よかった、連絡くれて』
「何かあったのか?」
『真白からメール来ないのよ。今、一緒にいる?』
そういや、今日はまだ来ないよなぁ。
「いや、まだだ。つーか、お前はまず自分の心配だろう?」
『ちゃーんと薬飲みました。ってか、クラスの雰囲気が気になるのよ』
急に、藤原の声に真剣みが増した。
『特にこれといって、目立つ何かをされてるってわけじゃないんだけどね。――やるなら、私が休んでる今かなぁ~って』
……さらっと嫌なことを。
だが、危ないのは藤原も同じだろうに。
「お前はないのか? 隼人関係の女が目の敵にしてただろう?」
『あれ以来なし。とにかく、私がいない間は、アンタがしっかり見てなさいよ!』
「お前は母親か。とりあえず、今は大人しく寝てろ」
切ると、持参した弁当を食べ始めた。
「――今日は、隼人も遅いな」
ふと、晶が言う。
時計を見れば、休み時間は残り二十分。
真白は何か用事があるかもしれないが、隼人のやつ、一体何してんだ?
すると――廊下から、バタバタと音がし始めた。
「――志貴!」
勢いよくドアが開く。
やって来たのは隼人で、余程急いだのか、息を切らしていた。