Sweet kiss〜眠り姫は俺様王子に捕まりました。

「っ……せんっ、ぱ」

 口が離れた隙に、先輩を呼ぶ。
 視線が合うなり一言、

「舌、もっと絡ませろ」

 そう言い、再び唇が塞がれた。
 これはもう、キスなんて生易しいものじゃない。
 こじ開けるように、先輩の舌が口に入ってくる。こっちが何もしなくても、先輩の方から絡んでくるから、息の仕方がわからなく。
 くすぐったくて、体中が痺れて……。
 心臓も、飛びだすんじゃないかってぐらい、大きく高鳴っていた。



 ――――ガラガラガラ。



 戸をひく音。
 あきらかに誰か入って来たというのに、先輩はまだやめてくれない。
 も、もうやめないと……!
 胸を叩き、先輩に知らせる。
 唇が離れるとすぐ、人がいると、なんとか伝えた。

「先生でなきゃ、こっち来ないから心配することねぇーのに」

「そ、そういう、問題じゃ」

 まだ余韻が抜けなくて、体に力が入らない。
 先輩に抱かれる体勢で、私はこの現場を見つからないことを願った。



「志貴~起きてる?」



 明るい声。声の主は――。

「ったく、いいとこだったのに」

「志貴~? 開けるよぉ~――おわっ!」

「お前、勝手に開けるなよな」

 やって来たのは、賀来先輩だった。
 抱き合った姿を見られた私は、もう恥ずかしくて恥ずかしくて。
 見られてるとわかってても、先輩の胸に隠れようと縮こまっていた。

「ってか志貴。ここではやらなかったんじゃなかったけ?」

「バーカ。最後までしてねぇーよ」

「へぇ~。よく保てたもんだね」

「当たり前だ」

「ま、そろそろ先生来るかもだから、離してやりなよ。真白ちゃん、カバン預かってきたからねぇ~」

 賀来先輩の方を見れば、その手には確かに、私のカバンがあった。
 ようやく梶原先輩から解放されると、賀来先輩にお礼を言った。

「どういたしまして。ってかごめんね? いい雰囲気だったんでしょ?」

「いいえ! 先輩が、謝ることじゃないですし……」

 むしろ、止めてもらえたことに感謝ですよ。
 あのままだったら……キスより先のことを、してたんじゃないかって。
 先輩は我慢するって言ってたけど、一瞬、そんな考えが過ってしまった。

「今日は志貴も帰るだろう? 熱あったんだし」

「あぁ。お前も帰るのか?」

「そーする。仕事も特にないしねぇ~」

 帰ろうとする先輩たちに、私はトイレに寄るからと言い先に行ってもらった。



「――――やっぱり」



 思わず、重いため息が出た。
 カバンを持った時、朝と重みが違っていたから確認して見れば――。

「ノート、破けてる」

 教科書はそのままで、ノートはぼろぼろ。
 そして自分のじゃないゴミが、袋詰めで入れられていた。
 この分だと、机の中にも入ってそうだなぁ……。
 また一つ、大きなため息が出た。
 言った方がいいんだろうけど、先輩、風邪っぽかったし。
 余計な心配をかけて、また熱でも上がったら悪い。だからこのことは言わず、私はいつもどおり帰ることにした。
 今はカバンより、紫乃ちゃんの方が気になるもんね。

「今日もありがとうございます」

 寮に着くと、先輩たちにお礼を言い別れた。
 そして着替えるとすぐ、紫乃ちゃんの部屋に行った。呼び鈴を鳴らしても出なかったから、預かってる鍵を使い中に入った。

「――紫乃ちゃん?」

 部屋に行けば、まだ紫乃ちゃんは寝ていた。
 ちゃんとお昼も食べたらしく、作っていたお粥は無くなっていた。
 額に触れてみれば、熱もだいぶ下がったようで。
 これならずっとついていなくても、夕食の時にまた来たらよさそう。
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