Sweet kiss〜眠り姫は俺様王子に捕まりました。

Episode5…胸が痛いです。〈後篇〉


 お昼に頃になると、少し熱が引いてきていた。
 小さいけど、声も朝よりは出てくれる。だから、ちょっと先輩に電話したくなった。
 時間を見れば、お昼休みになっている。電話をかけ数コール目、

『――どうした?』

 思ったよりも早く出た先輩に、驚いて話すのをためらってしまった。

『真白――? おい、どうした?』

「だ、大丈夫、です」

『声、出るようになったんだな。少しは動けるのか?』

「はい。ちょっと、ですけど」

『少しでも胃に入れて、薬飲んでおけよ』

「はい。ちゃんと飲みます」

 ふふっ。先輩、紫乃ちゃんと同じこと言ってる。
 二人とも、心配性な性格だよね。

「先輩の方こそ。もう、いいんですか?」

『あぁ、大丈夫だ。――けど、あと一限って思うと、なんだか長いな』

 時間にしたら、まだ二時間以上ある。
 ちょっとは体調がよくなってはいるけど、やっぱり、いつもより淋しい気持ちになる。

『ま、淋しくなったらメールしろ。すぐに返すから』

「すぐにって。先輩、授業中ですよね?」

『んなのバレねぇーよ』

 ……こんなの、先生たちには聞かせられないよね。

「でも、没収されたら面倒ですよ? 無理にメールはしなくていいので」

 なんとか納得させ、会長としてあるまじき行為を阻止した。
 心配だから、メールも送るのは止めておこう。

 ◇◆◇◆◇

 梅入りの粥を食べ薬を飲むと、しばらくテレビを見ていた。
 普段なかなか見ないから(倒れたり、起きても夜中だったりするから)、こうして過ごすのは久しぶりだ。
 今やっているのは、○○駅で評判のスイーツ特集!というもの。
 駅近くに、パンケーキで有名なお店が出店してるらしい。

「お店のって、どんな味だろう?」

 自分で作ったりするけど、お店のだとかなり豪華。
 ふわっふわで、中がレアのようなもの。
 余計な物は入れない、シンプルなミルクパンケーキ。

「――どれも美味しそう」

 今度、食べに行ってみたいなぁ。

 ――――――――――…
 ――――――…
 ―――…

『望月さんって、どこにも行けないんでしょ?』

 えっ、どうしてそんなこと。

『いつ倒れるかわかんないし、どーしたらいいかわかんないもん』

 そう、だよね。でも、全然行けないわけじゃっ。

『最近倒れてたじゃん。ほら、こっちで決めちゃおう』

 ……やっぱり、私がいると迷惑かけちゃうよね。



 これは、修学旅行の話し合い。自由時間にどこを回るかって決めていた時の光景だ。
 私がいると、先生が必ず付いてくる。
 だから、みんなはそれがつまらない。先生が一緒じゃ、せっかくの旅行が気兼ねして回れないもん。



 本当は――みんなと回りたい。



 でも、それを実行するには、やっぱり付き添いが必要で。



『先生と回りましょう』



 ずっと、この言葉を言われていた。
 昔は今よりも唐突で。予測できずに意識が飛ぶっていうのが、数日ごとに訪れていたから無理もないんだけど。



『まーしーろ!』



 それでも、一緒にいてくれる友だちがいた。
 紫乃ちゃんは嫌な顔せず、私に付き合ってくれた。
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