Sweet kiss〜眠り姫は俺様王子に捕まりました。
Episode6…初体験です。〈前編〉
今日は、特に何事もなく過ぎて行った。
やっぱり、私が紫乃ちゃんと一緒の時には何もしてこなくて。ノートも机も、破いたりゴミが入ってるなんてことはなかった。
問題があったのは、体育がある四限目。調子がいいから出ようと思ったけど、まさかの紫乃ちゃんストップがかかってしまった。
よくわからないけど、紫乃ちゃん曰く一種の勘のようなもので、それが働いた時はいくら調子がいいと言っても休んだ方がいいと説得されてしまう。最初の頃は大丈夫だからって気にしなかったけど、その後に倒れる、なんてこともあって――高校に入ってからは的中率も高いから、今日は素直に休むことにした。
今は保健室の窓から、みんなの様子を見学中。二週間後に迫った体育祭の練習をやってるんだけど、全体行動練習の時が先生たちの激が一番飛ぶ気がする。
「寝なくていいの? 姫ちゃんならいつでも使ってOKよ」
「大丈夫ですけど、姫ちゃんって言うのは……」
女性の保健医の中でも、有久(ありひさ)先生は結構フレンドリーに話しかけてくれる先生で、どことなく紫乃ちゃんに似ている気がする。
「あだ名は嫌いなの?」
「嫌いというか、周りが勝手に呼んでる名前ですから……」
「そっか。なら真白ちゃんって呼ぶのはOK?」
「はい、それはもちろん」
「よかった。じゃあ私のことも名前でお願いね」
「名前って、継(けい)さんって呼ぶんですか?」
「そう呼んでくれたらうれしいなぁ~。一年の時から知ってるのに、真白ちゃんそっけないんだもん」
机に頬杖をつきながら、にこやかな笑みを浮かべる先生。
普段クールな雰囲気の先生しか知らないから、こういう人懐っこい姿を見ると、ちょっとキュンてなる。
「先生――モテそうですよね」
思わずもれた言葉。それに対して先生から出たのは、
「真白ちゃん、いつの間に恋してたの?」
と、ビックリな発言をされた。
「わ、私はただ、先生がモテそうだと……」
「今までそういう話題振らなかったでしょ? なのにその手の話をするってことは、何か心境の変化があった。――違う?」
誤魔化そうって思ったけど、射るような眼差しを向けられてしまい、嘘をつきとおす自信がなくなってしまった。
「あ、無理やり聞こうだなんて思ってないから安心して? 恋に悩んだら、いつでも私のところにいらっしゃい。大人のアドバイスってものを見せてあげるから」
ふふ~んと上機嫌な先生。それを見て安心したのか、私は先生に訪ねてみたいことが出来た。
「初めてのデートの時……注意することとか、ありますか?」
倒れるとかはやらかしそうだけど、他の要因は避けたいし。
「わぁーお。まさかのデート相談か。真白ちゃんがそこまで進んでたなんて……」
娘を嫁に行かせる父親気分だわと、先生は一瞬遠い目をしていた。
「ちなみに、相手は真白ちゃんに夢中?」
「夢中、というか――」
隙さえあればからかわれたりはあるけど、そういうのとは違うような……。
「すごく、大事にはしてくれますけど。夢中かと言われると」
「赤くなっちゃってカワイイ。ん~注意するっていうか、そういうのも後から思い出になったりするから。しいて言うなら、気を張らないことかしら?」
「気を張らない……ですか」
「そう。一番大事なのは、二人でその時間を楽しむこと。細かいことは気にしない気にしない!」
なるようになるぐらいの精神で! と背中を叩く先生に、私は苦笑いをするので精一杯だった。
「ちなみに、後々どうだったか報告してくれるとさらに嬉しいなぁ~」
「えっと……それはなんとも。あのう、このことは誰にも」
「わかってる。内容はもちろん秘密厳守」
なんなら念書でも書く? と引出しから書類とペンを出され、どこから突っ込むべきか困ってしまった。
そうこうしていると、四限目の終了を告げるチャイムが鳴る。
昼休みになり、紫乃ちゃんのお弁当も持って先に生徒会室に行くと、中には久々に見る晶先輩がいた。
「望月一人か?」
「いえ、あとから紫乃ちゃんも来ます。晶先輩、今日はここでお昼ですか?」
「オレは届け物をしに来ただけ。――志貴とはうまくやってるのか?」
「は、はい。一応は」
「変なことされたら、浅宮に相談するのが一番だ。あいつには逆らえない」
やっぱり先輩、何か弱みを握られてるんだ。
「隣の部屋は開けてあるから、誰か来るまではそこで待っていた方がいい」
追っかけが来たら面倒だろうからと言い残し、晶先輩は会室を出て行った。
机にお弁当を置くと、私は隣の部屋でみんなを待っていた。