Sweet kiss〜眠り姫は俺様王子に捕まりました。



「――まだ来てないみたい」



 隣から音が聞こえる。紫乃ちゃんか先輩かが来たのかなぁって思って、ドアを少し開けて様子を見れば、

「開いててラッキーだね!」

「だねぇ~。中で待ってれば、直接渡せるし」

 はしゃぐ二人の女子が見えて、私はとっさにドアを閉めて鍵をかけた。気を付けたつもりだったけど、閉める時に思ったより音がしてしまった。

「誰っ! 出てきなさいよ」

「志貴くん? 志貴くんなの?」

 どうやら私だってことは気付いてないみたい。バレないよう、私はだんまりを決め込むことにした。
 その間にも、ノブを回したりドアを叩いたり。段々怖くなってきて、私は先輩にメールを送っていた。
 鍵が開いちゃうなんてことはないだろうけど……この雰囲気は嫌。
 立っているのもやっとで、私は床に座り込んでしまった。



『いつまで……不安のままいなきゃいけないのっ』



 家具を叩く音は苦手。心の奥から、嫌な感覚がわいてしまう。



『原因が分からないんだ。オレたちがしっかりしなきゃ、真白が余計怖がるだろう?』



『そんなこと言ったって! いつ倒れるかわからない。目が覚めるかもわからない。こっちが先におかしくなるわよ!!』



 ケンカする時は、決まって私が別の部屋にいる時。始まりはたいてい、お母さんが私のグチをこぼすところから。そこからヒートアップして、酷い時は物が壊れたりして――…



「――――真白ちゃん!」



 肩を揺さぶられ、目の前に誰かがいることに気が付いた。

「大丈夫? 横になった方がいいかしら?」

 心配してくれてるのは翠先輩。
 いつもなら同性だと怖くないのに、こういう時はいつもと逆で……同性が、怖いっ。



『心配ばっかりかけて……もううんざり』



 ごめんなさい。



『これで何件目? どの病院でもわからないなんて!』



 ごめんなさい。

「?――――真白ちゃっ」

「ごめんなさいっごめんなさいっごめんなさいっ!」

 強く耳を塞ぎ、私は同じ言葉を繰り返し続けた。

 *****

 四限の理科の授業が終わると、オレたちの班は片づけをしていた。
 隣の資料室に行くついでに携帯を見れば、珍しく真白からのメールが。

【なるべく早く生徒会室に来て下さい】

 早くだなんて、甘えてるのか?
 学校ではオレの方からしか言わなかったのに、ようやく頼りだしたってことか。

「志貴~終わった?」

 弁当を持った隼人に呼ばれ、オレは手早く掃除を済ませた。

「な~んかご機嫌だね?」

「珍しくメールがきたんだ」

「へぇ~よかったじゃん。やっぱ、頼ってもらえるといいよね」

 話しながら渡り廊下に向かえば、前から来る晶が見えた。

「望月が来てたぞ。早く言ってやれ」

「他のやつはいないのか?」

「あぁ、望月一人だ」

 だから早くだなんてメールよこしたのか。

「翠ちゃんもまだなんだね? 何してんだろう」

「電話じゃないか? 上に行ってるようだったし」

「わぁーお。志貴のラブラブが翠ちゃんにかんせっ!――ったぁ…」

 とりあえず、隼人の頭に平手打ちをお見舞いした。
 こんなところで暴走発言をさせるわけにはいかない。
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