Sweet kiss〜眠り姫は俺様王子に捕まりました。
「だからさっきは、それを思い出してちょっとパニックになってしまって」
苦笑いを浮かべると、隣にいた先輩が私の肩を抱き寄せた。
「無理して話さなくてもよかったのに」
「説明したいなって、思っただけですから」
「それでも、言うのは苦しかっただろう? これからは、そういうのもゆっくりでいいから」
「そうそう。無理することないんだから」
「そうよ、真白ちゃん。私たちはそれぐらい気にしないから」
「しいて言うなら、これから志貴には話してあげなね? コイツ、結構心配性だからさ」
ここに居るみんなは、私の体のことを何も言わない。それがうれしくて、私は笑顔でお礼を言った。
「そうそう。今日の仕事は志貴くんと隼人くんの挨拶文だから、忘れずにね?」
「あぁ、わかってるよ」
「オレもあと半分だから大丈夫だよ」
「それなら安心だわ。やっぱり、好きな子が居ると能率が上がっていいのかしらねぇ~」
その言葉に、私と紫乃ちゃんはどう反応していいかわからなくて。
お互い、苦笑いを浮かべながらも、楽しい昼休みの時間は過ぎていった。
そして――放課後。
少し待っててほしいというメールを受け、私と紫乃ちゃんは下駄箱で先輩たちを待っていた。
「そー言えば、今度の日曜デートするんだよね?」
不意にその話題を持ち掛けられ、私は思わず間の抜けた声を出していた。
「アイツ、結構気合い入ってるみたいよ。私に真白の好き嫌い聞いたりしてきてさ。――本当、愛されてるわねぇ~」
「そ、そんなに言うなら紫乃ちゃんだって……」
「私? 私がどうかした?」
「賀来先輩と、出かけたりはしないの?」
その言葉に、今度は紫乃ちゃんが不意打ちをくらったみたいで。こうしてあたふたする姿を見るのは新鮮だった。
「私たちは……そのう」
おや? これはもしかして――。
「賀来先輩と……何かあった?」
「オレがどーしたって~?」
急に現れた賀来先輩。それに驚いていれば、紫乃ちゃんの方が驚いているようで。珍しく顔を赤らめているのがわかった。
「は、隼人先輩っ。急に背後に立つのやめて下さいよ!」
「だって、オレの話してるみたいだったからさ。――それで、何話してたのかなぁ~?」
賀来先輩と目が合う。きっと紫乃ちゃんに言っても言わないから、私に聞いてるんだろうな。
「えっと。今度、梶原先輩と出かけるんですけど、紫乃ちゃんは賀来先輩と出かけないのかなって」
「へぇ~志貴とでかけるんだ。それで――紫乃ちゃんはどう答えたの?」
「答える前に先輩が来たので、なんとも」
「じゃあ、紫乃ちゃん。この後じっくり話そうね?」
そう言った先輩の顔は、どこかいじわるそうで。その顔を見た紫乃ちゃんは、観念したようにうなだれていた。
「あ、あのう。梶原先輩は――」
「もう少しで来るよ。――あ、ほら来た」
先輩が指をさす方を見れば、走って来る梶原先輩の姿が見えた。
「――悪い! 待たせたな」
「そんなに待ってませんから、大丈夫ですよ」
「それじゃあ帰るか。――ってか、なんで藤原は顔が赤いんだ?」
「私のことはいいから! ほら、帰ろう!」
紫乃ちゃんに手を引かれながら歩くと、後ろから先輩たちも付いてくる。
「全く。こーいうのは真白の役なのに」
未だに恥ずかしいのか、紫乃ちゃんの頬は微かに赤かった。
そう言えば、さっきも先輩のこと名前で呼んでたし。これは、私が知らない間に何かあったに違いない。
「たまには紫乃ちゃんの話も聞きたいんだよ? 帰ったら教えてね!」
「まぁ、言ってもいいけどさ。その前に、またアイツが家に上がると思うわよ?」
後ろを見れば、先輩はなんとなく不服そうな表情をしていて。
「私の話よりも、先にアイツのこと構ってあげなね」
そうこう話をしているうちに、寮の前まで来た。すると、先に動いたのは賀来先輩で。
「じゃあ、さっき言ったとおりお話ししようか」
そう言って、紫乃ちゃんの手を引いて行ってしまった。
なんだか先輩、大胆になってる気がするんだけど。
「はぁ。早くくつきゃいいのにな、アイツら。――それで、オレは入れてくれないのか?」
そっと、手を握ってくる先輩。それに戸惑いながらも、私は、家に上がることに頷いた。