Sweet kiss〜眠り姫は俺様王子に捕まりました。
Episode6…初体験です。〈後編〉
私たちは今、電車に乗っていた。向かうのは、ここから四十分程先にある場所らしい。駅の数にすると五つ分。そこに何があるのかと聞けば、行ってからのお楽しみだと言われてしまった。
「――そろそろだな」
下りるぞ、と言われ立ち上がると、先輩はもはや当たり前のように手を繋いでいく。
「ここから、どこに向かうんですか?」
「海だ。ちょっと歩くけど、体力は大丈夫そうか?」
「はい。今日は調子いいみたいです」
「もし悪くなっても、しっかり連れて帰るから安心しろな?」
目的の場所までは、歩いて十五分の距離らしい。
この辺りの土地勘はないので、先輩がどこを目指しているのかはまだ分からない。海に行くだけなら、もう目の前に広がっているし。何か有名なものでもあったかなぁと考えながら歩いていれば、小さな小島が見えた。
「もしかして、あそこに行くんですか?」
「あぁ。この時間なら潮が引いてて通れるからな」
そう言って連れられたのは、赤い鳥居のある小島。日曜日だからか、思ったより人通りがある。
「真白、こういう場所が好きだろう? 海も見えるし楽しめるかと思ってな」
鳥居をくぐり中へ入ると、そこはまるで別世界。周りが海なこともあって、不思議な感覚を抱く場所となっている。
「わざわざ、調べてくれたんですか?」
「当然だろう? 初めてのデートなんだから。――ほら、奥へ行くぞ」
神社内には、夏限定の自販機というものがあった。何だろうと思い見てみると、水まんじゅうが売られていた。
「せっかくだし、食べていくか?」
「ですね。なんだか縁起がよさそうだし」
水まんじゅうの自販機なんて初めて見た。そばにあるベンチに座ると、私たちは水まんじゅうを頬張った。味はいたって普通だけど、先輩と食べてるってだけで、うれしい気持ちがわいてくる。
「こーいうの食べると、お茶が欲しくなるんだよなぁ」
「あ、それなら買って来ましょうか?」
「いや、大丈夫。お茶って言うのは、茶道のこと。オレの家、昔から茶会とかに出てたから、こーいうのを食べると抹茶のイメージなんだよ」
「と言うことは――先輩も、着物を?」
「あぁ。なんなら、浴衣の着付けも出来るぞ? 今度着せてやろうか?」
成績優秀でスポーツも出来て、おまけに茶道までやってたなんて。先輩の新たな一面に、私は驚いていた。人の着付けまで出来るなんて、本当にスゴいよね。
「それだったら……夏祭り、とか」
お互い、浴衣を着て歩いてみたい。そう口にすれば、先輩はやさしい笑みで、
「なら、次は祭りだな」
と、私の頭を撫でてくれた。
「浴衣は持ってるのか? 無けりゃ、家から貸してやれるけど」
「実家に行けばあるので、大丈夫ですよ」
「そうか。これでまた、楽しみが増えたな」
「わ、私も……楽しみ、です」
先輩があまりにも笑顔で言うもんだから、私は恥ずかしくて俯いて答えた。
「そ、そろそろ見て回りましょう」
「そうだな。――ほら、繋ぐぞ」
そう言って、先輩は手を差し出す。
一緒に参拝を済ませると、次に見たのはお守り。色とりどりのお守りがあって、どれにしようか迷ってしまう。
「――あ、これ」
小さな鈴が付いた、ミニミニ巾着のお守り。手に取って見ていると、気に入ったのか? と先輩が顔を覗かせる。
「はい。今日の思い出に、これを買おうかなって」
「どうせなら、お揃いにするか」
意外な提案をされ、どうしたものかと考えていれば、先輩はさっと私の手からお守りを取り上げて、
「この二つをお願いします」
さらっと、お会計を済ませていた。
「――ほら、真白の分」
私が選んだのは白。先輩は、色違いの黒を選んだらしい。
「あ、ありがとうございます! 大事にしますね!」
「これぐらい気にするな。それに、お守りは人から貰う方が効果あるらしいぞ」
「それなら、先輩のは私が買った方がよかったんじゃ」
「いいんだよ。オレが叶えたいことは、今もう叶ってるしな」
そう言って、手を握る先輩。それがうれしくて、私はその手を握り返していた。
それからは島を一周して、たわいもない話をして歩いた。