Sweet kiss〜眠り姫は俺様王子に捕まりました。
――次第に、日が沈み始める。そろそろ潮が満ちる頃だと言われ、私たちは小島を後にした。海岸沿いには、夕日を眺められるお店があるみたいで、休憩がてらそこに立ち寄ることに。運よく海に面したテラス席が空いていて、ベンチタイプの隣り合わせの席に私たちは座った。
「思ったより歩いたが、体の方はいいのか?」
「はい、問題ないですよ。いつもこうだといいんですけどね」
「寝るときは、長くてどれぐらいなんだ?」
「昔は、まる二日寝てた時もありましたね。今は長くても一日ぐらいですけど」
「それでよく勉強が出来たな。うちの高校大変だっただろう?」
「あの時はもう、起きてる時間全部勉強って感じで。本当、よく合格したなぁって思います」
「それだけ頑張ったんだな。――真白は、苦手な教科とかないのか?」
「しいていえば、英語が……」
「藤原と同じか。もし苦手なら、オレが教えるぞ?」
「今は、紫乃ちゃんに教わってるのでなんとかやれてます」
「あいつも人に教えられるぐらいにはなったのか。昔は隼人に教わってたのに」
「賀来先輩、英語が得意なんですね」
「アイツ頭いいんだよ。教えるのは、オレより上手いな」
言われると、賀来先輩のイメージにピッタリかも。物腰もやわらかいし、やさしい口調だから先生とか似合ってそう。
「先輩は、教えるのが上手くないんですか?」
「隼人程の根気がないかもって感じだ。何か教えてほしいのか?」
「いえ、今のところは大丈夫です。もしわからないところがあれば、その時はお願いしてもいいですか?」
「あぁ、その時は任せろ。――ほら、もうすぐ沈むぞ」
肩を抱き寄せ、海を見ろと言われた。
ここがお店だってわかってるけど、今日は、こうやってくっつかれるのも悪い気はしない。
「今日……ここに来れてよかったです」
「それならよかった。誘った甲斐があるってもんだな」
先輩の手が、頭へ移動する。頭を撫でられながら、私は、落ちる夕日を眺めていた。
*****
夕日が完全に沈み、これで今日のプランは終わり。
真白の方を向けば、ちょうどこちらを向いた真白と視線がぶつかる。その表情はとても満足そうで、今日のデートを気に入ってくれたみたいだ。
本当、ここが店じゃなけりゃよかったのに。
その顔を見ていると、無性にキスをしたくなる。
「――そろそろ行くか」
さすがにここじゃ出来ないから、その衝動をぐっと堪えた。手を握りながら店を出ると、駅へ向う。時間を見れば、予定通り電車が来そうだ。
「帰り、他に寄りたい場所はないのか?」
「えっと。食材の買い足しをしたいぐらいですかね」
「なら、駅中のスーパーに寄るか?」
「ダメですよ! あそこ、意外と高いんですから。行くなら学校近くのスーパーが安くていいんですけど……」
こーいう堅実なところは、真白のいいところだな。
ホームに電車が入る。乗り込めば、意外にも座席が空いていて、オレたちは横並びに座った。
「スーパーまで歩くけど、平気なのか?」
「歩くのはいいんです。ただ……先輩と一緒なのはさすがに」
まぁ、学校から一番近いスーパーなら、寮に住んでるやつが来るだろうな。そうなれば、見られる確率は上がる。いっそ見られるなら。
「隼人や藤原が居れば、問題ないか?」
もう少し一緒に居たくて、オレはそんな提案をした。
「紫乃ちゃんたちが居るなら……大丈夫、ですかね?」
「二人きりでなけりゃ、言い訳が出来るからな。それに、アイツらも今日は一緒に出掛けてるから、多分、そろそろいい頃だろう」
隼人にメールを入れてみれば、ちょうど家に着いたとのこと。藤原とはさっき別れたばかりらしい。藤原にもスーパーに行けるか聞いてみると、行けるとの返事がきた。
「アイツら、オレたちが着くぐらいにスーパーに来るようだ」
なんだかんだで、隼人もまだ藤原と一緒に居たかったらしい。だからちょうどよかったと、メールには書かれていた。二人きりで出かけたなら、アイツらも少しは進んだってことだろう。どんな調子だったか、からかいがてら今夜聞いてみるのもいいかもな。
真白の方を見れば、さっそく今日買ったお守りを財布に着けている最中。それを見てニヤける姿に、オレは頭を撫でていた。