Sweet kiss〜眠り姫は俺様王子に捕まりました。



 そこに立っていたのは――和泉さんだった。



 思わず体が後退すれば、警戒しないでね? と、和泉さんは言う。

「あなたに、志貴の本性を見せておきたくてここに呼んだの。――これを聞いてくれる?」

 そう言って、和泉さんはポケットから何かを取り出した。
 ジーっという機械音の後に、音声が流れはじめる。

『志貴、あの子と付き合ってるんでしょ?』

『昔のことだ』

『ハッキリ言うのね。あんなに仲良しだったのに』

 流れてきたのは、和泉さんと先輩の会話だった。

『本気で私と付き合いたいの?』

『オレは本気だ!』

『――そこまで言うなら、考えてあげる』

 そこで、録音は終わっていた。
 先輩から……復縁を申し込んでる? それに昔のことって……。

「また付き合うって言われた時は、まさかと思ったけど。――あなた、まだ志貴と最後までしてないんでしょ?」

「っ! それは……」

「やっぱり。だから戻って来たのね。志貴って性欲強いから、出来ない子はいらなかったのね」

 出来ない子は……いらない。
 脳裏に、あの日のことが浮かぶ。
 それは、私が初めて出来た彼に襲われかけた時。確かに今の私は、まだキスより先のことは出来ないけど……でも、先輩がそんなふうに思うなんて考えれないと思うけど。

「私としても、二股は嫌だからあなたに聞かせたのよ? それに、志貴からお守りをプレゼントされなかった? あれ、私も持ってるのよ」

 そう言って、昨日先輩から渡された物と同じお守りを見せた。
 和泉さんの言葉が、どんどんどんどん。胸の奥に刻まれていく――…。
 聞かされた音声は間違いなく先輩で、お守りも、昨日と同じ物で。それらを間違えるなんてことはない。



 だから……。



 和泉さんの話は、本当なんだってことになる。

「本物か気になるなら、ドアの外に居るお友達にも聞いてもらいましょうか?」

 ここまで言うのは、余程この音声に自信があるってことだ。私が戸惑っていると、和泉さんはドアを開け、紫乃ちゃんを招き入れた。

「あなたにも聞いてほしいの。――これ、梶原先輩だと思う?」

 初めはなんのことかと戸惑っていた紫乃ちゃんも、音声を聞かされ、驚きの表情へと変わっていった。

「これってアイツの……」

「あなたから聞いても、これが志貴だってわかるわよね?」

 紫乃ちゃんにもこれが先輩ってわかるぐらいだし、やっぱりこの音声は――。

「私の用事はこれだけ。あとはよく話し合うことね」

 そう言って、和泉さんは屋上から出て行った。

「真白……」

「……紫乃、ちゃん」

「とりあえず、アイツに話そう。話はそれからよ」

 今にも泣いてしまいそうな私を気遣って、紫乃ちゃんは背中をさすってくれた。
 屋上から生徒会室に行く道中、私は生きた心地がしなくて。先輩に会ったら、どう言えばいいのかとか、そんな簡単なこともまとまってくれなかった。



「――志貴、話があるの!」



 そう言って、紫乃ちゃんは生徒会室のドアを開けた。その場には梶原先輩しか居なくて、他の先輩たちはまだ来ていなかった。

「急になんだよ。つーかここ学校。一応、気を付ける約束だろう?」

「今はどーでもいいのよ。――さっき、和泉さんと会ったわ」

「は!? 何もされなかったのか!?」

 慌てて私の元へ来る先輩。でも、今は怖くて、私は紫乃ちゃんの背中に隠れていた。

「ある音声を聞かされたのよ。――アンタが、復縁を迫ってる音声をね」

「オレが復縁? んなのありえないぞ」

「でも、あれは間違いなくアンタだった。あれが偽物って言うなら、どう説明するの?」

「んなこと言われても……!」

 何か思い出したのか、先輩ははっとした表情を浮かべた。

「まさか……あの時に」

「思い当たる節、あるのね?」

「あるにはあるが、オレは復縁なんて迫ってない。――真白」

 名前を呼ばれ、思わずビクッと震える体。先輩を見れば、悲しそうな表情を浮かべていた。
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