Sweet kiss〜眠り姫は俺様王子に捕まりました。
「二人で話したい。――大丈夫か?」
先輩は、無理して話しをしようとは言わない。私の調子を考えてくれてるし、あれも違うと言ってるわけだし。
「――わかり、ました」
そう告げれば、先輩は私の手を引いて隣の部屋へ入った。
ソファーに横並びで座ると、私の左手を握りながら、先輩は話を始めた。
「和泉が帰ってきてしばらくして、学校の屋上で一度会ったことがある。和泉とはそれきりだ。その時に、もう復縁なんて考えてないって言ったことはある」
「それが本当なら……どうしてあんな音源が」
「分からない。だが、今は合成しようと思えば簡単に出来るからな。会話をつぎはぎすれば、真白が聞いたような音声も作れると思う」
もしあれが作り物だとしたら、和泉さんは何がしたかったんだろう。やっぱりまだ、先輩を諦めきれてないのかなぁ。
「誓って、オレはアイツを選んでない。これは本当の気持ちだ」
そう言って、先輩はぎゅっと、いつもよりきつく抱きしめてきた。
「お、音声だけじゃなく……和泉さん、お守りも持ってました」
告げると、先輩は腕を緩め、顔を見合わせた。
「それ、間違いないのか?」
「はい……あれは、確かに先輩がくれたのと同じでした」
「……もしかしたら、つけられてたのかもな」
「それって、昨日のデートを見てたってことですか?」
「アイツが動かなくても、いくらでもやりようはあるからな。――アイツは、すぐに尻尾を出すようなことはしねぇーから」
もし、つけられていたなら、普段の行動ももしかして――。
思わず震える体。それを先輩は、やさしく頭を撫でながら大丈夫だと言う。
「お前が危ない目に合わないよう、オレも気を付けるから。――信じてくれないか?」
先輩の顔を見れば、今にも泣いてしまいそうな顔をしていて。それだけ、私に疑われたことが辛かったのかなぁって思った。
「……疑って、ごめんなさい」
「まぁ、確かに少しはショックだったけどな。音声を聞かされれば、そーなるのも無理はねぇーよ。――他に、どんなこと言われた?」
「他は……先輩は、性欲が強いから。出来ない子はいらない、って」
「アイツ……余計なことを」
そう言って、先輩はまた、私をきつく抱きしめた。
「いいか? オレは、真白が嫌がることはしない。お前が待ってほしいって言うなら、いくらでも待ってやる。それぐらい本気で好きなんだよ。なんだったら――」
腕を緩める先輩。顔を見れば、そこには真剣な表情をした先輩が見えた。
「キスだってやめれる。ちゃんと待てない程、軽い気持ちじゃねぇーから」
その提案は……ズルい。
だってもう、私はキスをすることに抵抗を感じてない。むしろ、その行為を欲しいとさえ思っているんだから。
「っ!?――真白?」
今度は、私から先輩に抱き着いた。
「キス、は……やめなくて、いいです」
恥ずかしがりながら告げれば、再び、頭に手が置かれた。
「お前からそんなこと言われるのは、意外だったな」
「だって。嫌じゃ、ないですから。――先輩」
抱き付くのをやめ、先輩の顔を見る。
「今……すごく、したいです」
告げれば、先輩は驚いた顔をしていた。でもすぐに、やわらかな笑みを浮かべながら、
「なら、じっくり味わわせてもらうか」
そう言って、先輩の顔がゆっくりと近付く。思わず目を閉じれば、すぐに、唇に感触が広がった。
「んっ……はぅ」
いつもみたいに、最初は軽いキスから。そして私の様子をうかがいながら、次第に、深いキスへと移行していく。
「んんっ……せんっ、ぱい」
後ろ頭をしっかり押さえられ、唇が押し当てられる。ついばむようなキスも好きだけど、こうして深いキスをするのも、好きになってきたかもしれない。
舌と舌が絡み合い、口内を埋め尽くすそれに、体は痺れたように反応を示していた。
「――今日は、これぐらいにしておくか」
頭がぼぉーっとして、体が熱い。
でも、まだキスの余韻が残っているせいか、今日はまだやめてほしくない。
「……せん、ぱい」
「どーした?」
「今日は……もう少し」
そう言って、今度は私から唇を重ねた。とは言っても、ほんの軽いキスなんだけど。